経験者は語る。プチ失踪の3つのメリットとデメリット

 失踪にメリット? ふざけるな。んなもんねーよ。

 わかります。

 だけど、毎年一定数の人が失踪・行方不明・家出を衝動的に試みているのは事実。
 私も過去に二ヶ月間行方不明になったことがあります。

 もちろんここで、「あの失踪があったから今の自分がある」なんて主張するつもりはないし、誰かに失踪を勧めるつもりもない。
 けれど、どうしても追い詰められると失踪を志向してしまう人が一定数いるというのは事実なわけです。

 そんな彼らを、あるいは私を、甘えだとか逃げだとか紋切り型の言葉で非難することは簡単です。

 でも私は経験者として、失踪を試みることを否定も肯定もしない立場でメリット・デメリットをここに記そうと思うわけです。

 

失踪のメリット

全てを放棄して自由を満喫できる

 失踪直後の清々しさったら他では味わえません。あらゆるしがらみから解放された完全なる自由がそこにあります。
 似たような行為に「昼間からビール」がありますが、こちらは「ビールうまいなー…でも明日は仕事なんだよな」というがっかり感がついて回りますが、失踪に関しては「…明日から仕事なんだよな」の部分を全く気にする必要はありません。
 明日も明後日もやりたい放題なのです。

 もちろん、お金の問題もありますし、会社や両親、事情を知った友人などからガンガン電話がかかってきますからずっと浮かれているわけには行きません。
 2〜3日も経てば「あー自分はなんてことをしてしまったんだ。進めもしないし戻れもしない。どうしよう」という切羽詰まった思いに駆られることとなるでしょう。

 しかしながら、失踪のあの爽快感、生きている感じ、清々しさは唯一無二のものです。

 

合法である(少なくとも違法ではない)

 失踪は少なくとも違法ではありません。
 失踪を知った両親によって捜索願が受理されれば警察が積極的にしろ消極的にしろ関わることとなりますが、それでも違法ではありません。
 尋常ならざる心配、迷惑、労力、手数をかけるにも関わらず、です。

 従って我々は心置きなく失踪していることができます。
 加えて、失踪の際に自宅に「1. 失踪時の日付・署名」「2. 自らの意志で失踪すること」「3. 自殺はしないこと」を明記した失踪宣言書を残しておけば、警察もあなたを積極的に捜索することはしません。

 もちろん、社会人失格という烙印が押されますし、無断欠勤の末の長期に渡る失踪となれば現職を懲戒解雇される(私のことです)リスクはありますが、それでも犯罪者ではない。

 もし失踪を自発的に終わらせて帰るべき場所に帰るならばそこからまた始めればいいし、帰らないという決断を下すとしても何に追われることもなく好きなことを始めればいい。

 人が一人消えたという一大事であるにも関わらず、圧倒的な自由を手にしたままでいられるということです。

 

自分にとって何が重要か考える時間ができる

 私事ですが、社会に出てから挫折感が大きかったです。
 仕事自体は卒なくこなすことができ、人当たりもいいのだけれど、どうやらコミュニケーション能力が足りないらしい。
 忍耐力も不足しているのだろう、些細なことでもストレスになって逃げ出してしまう。

 学生時代はそれなりに成績は優秀でよく褒められていたので、社会に出てからのこの挫折は大変に意外であり、自分にとっても衝撃でした。
 しかも一度だけでなく、どの会社に入っても何度も駄目になってしまう。
 ある時などは会社と逆方向にクルマを走らせながら泣いた。26歳の夏。子供の時以来だ。

 挫折を繰り返す中で、これまで形成されていた自分というものが跡形もなく崩壊してしまった気がした。

 私は社会に出てから二度の失踪、二年のニート生活、二度の転職を経て今に至るのだけれど、そうしてやっと自分にとって何が合っているのか、何がストレスになるのかがようやくわかった気がします。

 今は、生活レベルを落として、週3だけ仕事を入れています。
 安い家賃、自炊、節約。クルマも不要になって手放しました。
 だけどこの穏やかな生活が気に入っています。ストレスもかつてよりだいぶ減りました。

 立派な社会人としてバリバリ働いてお金を稼いで大量に消費するよりも、最低限の収入の中で生活をやりくりし、自由な時間をひとりでのんびりとするほうが性に合っていたようです。

 今、こうしてわりと穏やかな生活を手に入れることができているのは、自分の人生にとって何が重要であるか気づけたことは、かつての失踪を含めた大きな挫折があったからと考えることもできます。
 もちろん、人にかけた迷惑がなかったことになるわけではありませんが。

 

デメリット

 失踪のデメリットについては言われなくても自明でしょうから、さらっと書きます。

お金が要る

 最大の問題です。
 私は失踪時に80万円あった貯金が2ヶ月間で30万円にまで減りました。主にネットカフェへの宿泊費です。

 長期的な失踪のためには、予めの多額の貯蓄、失踪中の倹約(主に食費と宿泊費)が必要となってきます。
 バイタリティがあるなら日雇いで賃金手渡しの仕事をするのもいいでしょうが、仕事が嫌で失踪しているのに生活のために仕事をするとなれば何のための失踪なのかわからなくなりそうなのが難点です。

 

会社は懲戒解雇・社会人失格

 少し前述しましたが、自らの責任を放棄して失踪という名の長期無断欠勤をするのは社会人としてどうなのかという問題です。
 でもこれは、そのときには精神的に限界だったから失踪するという選択肢しか選べなかったと自分を納得させるしかありません。やってしまったことは仕方ない。

 問題は今後である。
 私の経験上、過去に二度も失踪をして懲戒解雇になっているにも関わらず、その後の就職には何も影響しませんでした。懲戒解雇を詮索されることもありませんでしたし、そもそも相手企業には知られていなかったようです。二度転職していますが、いずれも街の小さな零細企業です。

 私はことさら運が良かったのかもしれませんが、ここに失踪して懲戒解雇になったにも関わらずのうのうとそれなりにポジティブに生きている人間がいるということを知るだけで励みになる人もいるかもしれません。

 

親や友人、恋人に心配をかける

 これもやってしまったことは仕方ないと片付けるしかありません。過去を振り返っても意味がないし、誰もそんなことを望んでいない。
 反省は一度だけで充分である。

 私の場合、失踪を諦めて二ヶ月後に実家に帰った際には両親は温かく迎えてくれました。あれほど厳しかった父親が何も詮索することなく「いろいろあったんだろう。しばらくゆっくり休みなさい」とだけ声をかけてくれ、自分のへそくりだという20万円を手渡してくれた時には何も考えられなくなりました。こんなことがあっていいのかと、混乱したのを覚えています。
 半年後、私は県外の企業に内定をもらい、実家を出ました。

 失踪中に唯一連絡を取っていた友人とは今は疎遠になり、当時遠距離恋愛をしていた恋人とはその後数年間交際を続け、別れました。

 今はひとりで穏やかに暮らしています。
 人生で今が一番ストレスなく穏やかであると感じています。

 
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