悠々自適?そんなに甘くない。山形で3年間の田舎暮らしを体験してわかった5つのこと

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 勤めていた会社での転勤で山形県に3年間住んでいたことがあります。私はそもそも東北出身ですが、山形というと「ザ・田舎」という印象でした。

 田舎暮らしに憧れる人が多いと聞きます。都会の喧騒の中、慌ただしい日々の渦中にいると、田園風景の中で何のしがらみもなく過ごすことが理想の人生のように思えてしまうものです。もちろん、人間は自然とともに生きてきたのであり、狭いコンクリートジャングルの中で窮屈に生きていくことは不自然なことであると言えるかもしれません。

 でも、田舎暮らしは神格化されるほどには順風満帆なものではないと私は実感しました。日々に疲れてしまうと「都会が悪い。田舎に行けば全て解決するに違いない」と思い込みがちですが、そうでもないのです。田舎には田舎のかけがえのないデメリットがきちんと存在します。

 私がたまたま住んだことのある山形県を例に話しますが、決して山形県を悪く言いたいわけではありません。良い思い出ばかりです。

 無条件に持ち上げられて理想郷とされがちな田舎暮らしの実体験と感想をここに提示して、田舎暮らし始めてしまってから後悔することのないようにを釘を差しておこうというのが本稿の論旨です。参考になれば幸いです。

 

基本情報

住んでいた場所:
米沢市や南陽市(赤湯温泉がある)の近く。山形県の中ではそれほど田舎ではないかもしれない。

 
居住期間:
3年間。

 
就いていた仕事:
スーパーマーケットの社員を一年半。農業法人で米作りに携わって一年半。退職後、仙台に引っ越した。

 

1. 物価は意外と高いぞ

 田舎というと物価が安いと思われがちです。「物価が安いからあまり稼がなくても生きていける」と。はっきり言っておきましょう。これは大きな誤解です。田舎は決して物価が安いわけではありません。以下、思い出した順に挙げていきましょう。

ガス

 高いです。一人暮らしで毎日シャワーをあびているだけなのに月10,000円程度の請求が来ます。従って、ちょっと料理をしたり風呂に入ったりとなれば一人暮らしであるにも関わらず簡単に月に20,000円は超えてしまうでしょう。

 当然ながら都市ガスなんてありませんので、競合の少ないプロパンガス会社が提示する請求金額に甘んじるしかないというわけです。

ガソリン

 高いです。隣県に比べて5円程度は高かったという印象です。

食費

 高いです。例えば、隣の宮城県仙台市や私の住んだことのある群馬県前橋市では豆腐が一丁28円とか、うどんが一玉18円とかで売られているのをよく見かけましたが、山形県ではそんなものは見かけたことがありません。豆腐も一丁99円だったりするし、うどんも3玉128円とか。高い。

 では野菜などの農産物は安いのかというと、そうでもない。山形県において野菜というのは家の畑で作って、自宅で消費したりお隣さんにおすそ分けしたりするものであるので、そもそもスーパーマーケットで野菜は売れないのです。どんなに安い値段を付けても。

 やはり競合店が少ないために価格競争になりづらく、価格も下がらないという要因があるように思います。スーパーマーケットなどの店舗における商品の値段は薄利多売の可能な都内のほうがよっぽど安いように思います。

家賃

 安くはないです。田舎というと家賃が安いというイメージがあるかもしれませんが、そんなことはありません。

 私が住んでいたアパートは家賃45,000円でした。新しくもなく、特段古くもなく。コンビニは目の前でしたが、スーパーまでは徒歩10分。「もっと安い物件はないのか」と不動産屋に訊ねたけれど「ない」との返答でした。

 もちろん、付近にコンビニもないような場所であればもっと家賃は安くなったのかもしれません。けれど、田舎というと家賃2万円くらいでそれなりの物件に住めると思われがちですが、全くそんなことはなかったのでした。

ゴミ袋

 私の実家のある地域でもそうでしたが、田舎という場所はゴミ捨てに関してうるさいのです。地域指定のゴミ袋に入れ、きちんと名前を書いて捨てなければならないのですが、そのゴミ袋が異様に高い。20リットルのゴミ袋で10枚350円です。

 ゴミ袋が10枚350円。しかも20リットルって。容量が異様に少ない。すぐに一杯になる。

 私が住んだことのある、仙台市、宇都宮市、前橋市においてはゴミ出しのルールはほぼフリーダムで、指定のゴミ袋もありませんでした(仙台は指定ごみ袋がありましたが遥かに安かったです)。うるさいルールもありません。

 田舎はのびのびとしているなんて言われますが、ゴミ出しに代表されるように意外と窮屈な側面もあります。田舎のフリーダムな面としては「家庭ゴミを山で焼く(野焼き)」をやっている人もいましたが、言うまでもなく違法です。

 

2. 賃金が安い・仕事が少ない

 上記において田舎では意外と生活コストがかかるということを紹介してきましたが、では賃金はというと安いです。

 都内など都市部においては地価が高い故に生活コストもかかるけれど、賃金も高く設定されているからなんとか生活していけます。ですが、田舎・地方では生活コストがそれなりにかかるにも関わらず賃金が安いのです。しかも、求人数もかなり少ないと来ている。フリーターで一人暮らしを目指した私の知人がおりましたが約一年で頓挫していました。

 田舎暮らしを目指すにあたって、とりあえず移住してから仕事を見つけるというのは危ない橋であると私は考えます。フリーターの一人暮らしも相当難易度が高いです。私は現在、北関東の地方都市で一人暮らしで月10万円で生活をしていますが、山形のような田舎で同じことをやるのは不可能な気がします。

 

3. 不便。クルマは必要不可欠な移動手段

 クルマがないと生活できない、というのは大袈裟な表現であるかもしれません。実際、クルマを所有せずに生活している人はいるでしょう。

 だけどその場合は、徒歩・自転車圏内に生活必需品を入手できる環境が整っているという条件は必須です。従って、田舎の中でもそれなりの中心街的な場所に居を構えることになるでしょう。当然ながら、自転車圏内においては時間を潰せるような場所は殆ど何もないので、毎日が家とスーパーの往復になってしまうでしょう。

 電車は一時間に一本とか、二時間に一本ペースです。駅の間隔も広く、次の駅に着くまで5分や10分。誰も電車なんて当てにしておらず殆どインフラとしての機能を果たしていないのが実情です。

 クルマがあることによって行動範囲が広がり、例えば山形市民であれば隣の仙台市に自由に行き来することが可能になります。意外と近いです。田舎においてクルマなしの生活をするということは、想像以上に不便で退屈であると覚えておいた方が良いでしょう。但し、クルマを所有することによって生活コストは莫大に跳ね上がってしまい、生活を困窮させる大きな要因となり得る。難しい選択です。

 

4. 退屈との戦い

 田舎は静かでのどかですが、それは余計なものが何もないということを意味します。つまり、都内などの都市部のように街を歩いているだけでも刺激的で暇つぶしになるなんてことは間違ってもありません。

 もちろんこれは性格や好みの問題でしょう。日々に刺激が欲しいという人もいれば、家にこもっていても一人で暇を潰せる人もいます。ただ、田舎に刺激が極めて少ないことだけは確かです。

 また、私のようにインターネットさえあれば延々と日々を過ごせるという人もいるでしょう。最近ではAmazonプライムビデオU-NEXTHuluなどのオンデマンドビデオサービスによってレンタルビデオ店さえ不要になりつつあります。これらのサービスは退屈で不便な田舎暮らしには必須であると私は考えています。

 

5. 謎のローカルルール

 洗練された個人主義の都会と違って、田舎では古くからの慣習に縛られた全体主義と言うこともできるかもしれません。

消防団

 地域の若者は自衛の消防団に編入させられて地域対抗のイベントに駆り出されたりします。「仕事が終わったら消防団の集まりに行かなければならない」というのを何度か耳にしたことがあります。消防は消防署の仕事だと思っていた私にとってはいささか衝撃的でした。

ゴミ出し

 前述の通り、ゴミ出しのルールが非常に厳しいです。私はかつて、ゴミを夜中に名前を書かずに出したことがあるのですが、翌朝「あなたは町内会費を払っていないのでゴミを出す権利はない」みたいなことを言われてゴミが自宅まで返ってきました。

 まず、そのゴミがなぜ私の出したものだとわかったのかが不可解だし、町内会費なんてものの存在は一言も聞いていなかったので、非常に不愉快な気分になりました。それ以降、ゴミは直接焼却場に持っていくことにしました。

近隣住民との濃密な人間関係

 田舎の人は確かに親切で温かいと思います。私が初めての土地で道に迷っていた際、見ず知らずのタクシーが横に止まり「乗ってきな」と無料で乗せてくれたこともありました。仕事の関係で農家の家を訪問すれば「おーよく来たな。まず上がってお茶でも飲んでけ」と言ってくれる。大量の雪に戸惑う私を見かねてか、隣の家の人が黙って雪かきを手伝ってくれる。

 非常に温かいことです。ですが、人付き合いをなるべく避けて静かに暮らしたいと思っている人にとっては、その厚かましさや少数で構成される地域の人間関係が面倒になってしまう可能性もあります。

 現に、会話と言えば他人の噂話や悪口が大半を占めていたりするのは私の実感するところですし、もっと閉鎖的で排他的な場所に住むとなれば部外者という理由だけで嫌がらせをされることさえあると聞きます(私はありませんが)。

 人付き合いの面倒な人は田舎よりも、むしろ個人主義の都会に住んだほうがいいように思います。

 

まとめ:よく考えた上で田舎暮らしをしよう

 三年間の田舎暮らしを経験して、私が思ったことは「二度とここには戻るまい」ということです。嫌いになったわけでもないし、嫌な思い出があるわけでもありません。ただ、私としては地方都市のほうが豊かな暮らしが実現できると思ったからです。

 まず、何より生活コストがかかるにも関わらず、賃金は低く、仕事も少ないというのは大きな痛手です。その上、クルマを所有すればさらに生活コストは跳ね上がる。

 本文中でも触れましたが、私は現在、北関東の都市部で生活しており月10万円で暮らすことができています。ここではクルマがなくてもそれなりに生活できるし、家賃も三万円以内でそれなりの物件に住めます。物価も安い。ちなみに『20代で隠居 週休5日の快適生活』の著者・大原扁理さんは、東京都多摩市において年収90万円以内で自立して生活しているようです。

 そう、いきなり遠隔の田舎に引っ越さなくても、都心からちょっと外れた地方都市であれば生活コストを下げた上でゆったりとした生活を営むことは可能です。加え、そこではわけのわからないローカルルールもないでしょうから部外者にも優しいはずです。

 「ストレスフリーでハッピーな田舎暮らし」などと喧伝されていますが、その姿勢には私は疑問を感じます。ストレスフリーでハッピーで悠々自適に暮らすためには、絶対に田舎でなくてはならないなんてことはないからです。もちろん、具体的に「○○の地域で△△をやりたい」という確固たる信念があるのなら話は別ですが、テレビや雑誌などにおけるきらびやかな特集に影響されて「田舎に移住しよう!」と衝動的に行動してしまうことは危ういと思うわけです。