「大学卒は使えない」と騒いでいるのはバカな職場だからあなたには向いていないという話

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 私が新卒で入社したスーパーマーケットにおいては社員のうち高卒と大卒が約半分の割合で在籍していました。そこでよく聞かれた言葉に「大学卒は頭で考えるだけで行動しないから駄目だ」というのがありました。実際、その職場では高卒であれども出世コースに乗ることが可能であり、新入社員で自分に自信がなく行動力も全くない大学卒の私は「大学卒は無能なのか」と意気消沈したものでした。

 今になってみればそんなことは全くないとわかります。その職場では「学生時代に勉強ができても社会に出たら何の意味もない」という言葉もよく聞かれましたが、そんなわけないのです。同じ空間で同じ時間の授業を受けているにも関わらず学力に差が出てしまうという事実から、「勉強が得意」というのは理解力、集中力、記憶力が高いことを示すひとつの指標となり得ます。

 
 本稿においてはとりあえず「高卒=学力は低いが行動力がある」「大卒=学力はあるが行動力に乏しい」と大雑把に規定して、「大学卒は頭で考えるだけで行動しないから駄目だ」というのが詭弁であり、その職場は大卒のあなたに向いていない仕事である可能性が高いことを解き明かしていくものです。

 

「大学卒は考えるだけで行動しない」が意味するもの ―よく考えているから学力が高い

 『内向型人間のすごい力』(スーザン・ケイン、講談社+α文庫)によれば、報酬を先延ばしにできる人ほど高校時代の成績が優秀=大学への進学率が高いことが確かめられています。「報酬を先延ばしにできる人」というのは、今沸き起こる欲望、雑念や衝動に突き動かされることなく未来に向けて自分を律することができる人のことです。

 同様にして『マシュマロ・テスト』(ウォルター・ ミシェル、ハヤカワNF文庫)においても今を我慢できる人ほど成功する傾向にあることが示されています。つまりは、大学卒の人材というのは「報酬を先延ばしにできる人」であると言えるでしょう。

 なぜ、「報酬を先延ばしにできる人」が成績が優秀であるかというと、行動を起こす前によく考えることができるからです。目の前にぶら下げられたニンジン=報酬に左右されることなく、問題の本質を見誤ることなくきちんと解決できるということ。衝動に身を任せていろいろなことに手を付けた挙句に中途半端に諦めるのではなく、一つのことを集中してやり遂げることができるということ。遊びたい今を我慢して将来のための勉強ができるということ。

 
 と考えれば逆に「今遊びたいから遊ぶ人=行動力のある人」というのは「目の前の報酬に誘惑されやすい人」であるとみなすことができます。つまり、「行動力のある人」というのは「何も考えないでただ行動したいと思ったことを行動しているだけの人」と言い換えることもできるでしょう。

 

バカにならないための2つの心理学

 ここからは「大学卒は頭で考えるだけで行動しないから駄目だ」が一般論ではないことを心理学的に検証していきましょう。

1. ダニエル=クルーガ効果 ―能力の低い人ほど自分に自信がある

 ダニエル=クルーガ効果とは「能力の低い人ほどなぜか自分の能力に過剰に自信を持つ」現象のことであり、同様のことは多くの実験によって実証されています。これを学力に置き換えてみると「学力が低い人ほど、自分はできる人間だと過剰に自信を持っている」ということになります。

 高卒というのは(一般的に、あるいは相対的に)学力が低い集団のことですから、高卒の人が「大学卒は使えない」と自信を持っていることはつまり、自分で自分のことを「能力が低い人間である」と白状しているようなものです。

 あるいはイギリスの哲学者バートランド・ラッセルの有名な言葉「世界が抱える問題は、愚か者が自信に満ちあふれていて、賢い者が疑念を抱えていることだ」もそれと同義で、非常に興味深いです。

 

2. ファスト思考とスロー思考 ―愚か者は物事を深く考えることが出来ない

 ノーベル経済学賞受賞者であるダニエル・カーネマンは、人の思考には「ファスト思考=速い思考」と「スロー思考=遅い思考」の二段階あることを明らかにしました。要するに「ファスト思考」とは「第一印象、直感、衝動」のことであり、「スロー思考」とは「よく考えた末の判断」のことです。

 橘玲『バカが多いのには理由がある』(集英社文庫)においてはこのファスト思考・スロー思考を引き合いに出して、「バカとはファスト思考しかできない人のことである」としています。直感=ファスト思考は脳に負担がかからないけれど、熟慮=スロー思考にはエネルギーを要するし、時間が掛かるし面倒である。つまり、バカは考えることを億劫がるために、常に直感に従って行動するのです。

 
 さて、ここで想起されるのは先に述べた「報酬を先延ばしにできる人は成績が優秀である」ということです。バカが「ファスト思考しかできない人=直感に従って行動する人」であるならば、賢い人は「スロー思考ができる人=報酬を先延ばしにできる人」です。

 そう、「大学卒は頭で考えるだけで行動しないから駄目だ」というのは決して一般論ではなく、違った見方をすれば「高卒は直感に従って行動するだけで考えないから駄目だ」と言い換えることができるのです。

 

あなたに合った職場が必ずある

 やや乱暴な物言いになってしまいましたが、私は決して高卒を卑下したいわけではありませんし、「高卒=バカ」と言いたいわけでもありません。

 ただ「大学卒は頭で考えるだけで行動しないから駄目だ」という意見にだけ反論しているのです。過去の私のように「大卒は使えない」と言われて悩んでいる人がいるなら、全くそんなことはないから自信を持っていいのだということを示したいのです。

 
 「高卒=学力は低いが行動力がある」「大卒=学力はあるが行動力に乏しい」に優劣はありません。考えないで行動しても成功しないでしょうし、よく考えるけれど全く行動しないのも問題です。

 だけど「大学卒は頭で考えるだけで行動しないから駄目だ」や「学生時代に勉強ができても社会に出たら何の意味もない」「大卒は使えない」などと言う意見が一方的に正しいかのようにまかり通っている職場は、行動する前によく考えることのできるあなたに適した仕事ではないのではないのかもしれません。

 
 私の例で言えば、私は行動する前によく考えたいのです。速さよりも正確さを求めたいのです。スーパーマーケットの仕事で一番好きだったのはデータを分析して資料を作ることでした。その資料をもとに戦略を立案して実行する、というのが私にとって好ましいスタイルでした。

 しかしながら、スーパーマーケットの仕事というのはとにかく朝から晩まで数字に追われ続ける上にやるべきことが膨大であり、じっくりと考えている暇があったらとにかく行動しないと一日の業務が終わりません。資料の作成なんてしている暇があったら商品の陳列をしなければならない。デスクで戦略を練っている暇があったら何でもいいから動いてチャレンジしたほうが評価される。そこは一日の中で何も考えずにボロボロのPDCAサイクルを回し続ける人が優秀であるとみなされる場所です。

 つまり、私には合わない職場なのでした。正しいかどうかの検証もせずにとりあえず場当たり的に行動するというのは性格的に嫌なのです。それなりに卒なく仕事はこなしていたつもりでしたが、精神的に疲れてしまい2年半で辞めてしまいました。

 後に田舎の農業法人に転職した際にも「オレは殆どの授業をサボっていたからすごい」みたいなことを堂々と言ってのける者がおり、大変にうんざりしました。もちろん、そこもすぐに辞めました。合わない職場だったからです。

 
 そのような意見が幅を利かせる職場というのは、要するに「ファスト思考しかできないバカな職場」であり「実力を実際よりも過剰に高く見積もる愚かな職場」である可能性が高いです。間違ってもあなたが「使えない」「駄目」なのではありません。

 賢いあなたにとっての選択肢は二つ。愚かな職場であると割り切って孤高な態度で業務に邁進するか、バカな仕事には早めに見切りをつけてあなたに合った職場を見つけるか。そのどちらかがこの先に生きていく上での賢明な手段になり得るでしょう。