商品の価格は「なんとなく」決めるものではありません。様々な要素を勘案し緻密な計算によって売価は設定されます。
一流の企業であればあるほど、その価格にはきちんとした意味があり戦略があります。
かつてスーパーマーケットの青果(野菜・果物)部門で正社員として働いていましたが、そこにおいても売価はきちんと電卓を叩いて決めていました。
売上を伸ばすことを「攻め」と、利益を確保することを「守り」とするならば、私は圧倒的に「守り」タイプの戦略家でした。
以下、私の経験に基づいて、スーパーマーケットの青果部門における利益確保のための基本的な戦略を解説していきましょう。
【前提】最終目標は粗利率を確保すること!
スーパーマーケットの仕事はその部門の経営をすることに他なりません。
すなわち、スーパーマーケットで働く従業員における最終目標は「利益の確保」です。
ここで言う「利益」とは「売上−仕入−人件費などの諸経費」を指しますが、おおよそのスーパーマーケットにおいては各部門はまずは「粗利」の達成を目標とされます。
粗利額=売上−仕入
つまりは、粗利とは人件費とか光熱費とかそういったごちゃごちゃしたものはさておき、仕入れた物をそれよりも高い金額で売ったその差額のことを指すわけです。
この粗利はパーセンテージで目標が定められていることが多く、私が勤めていたスーパーマーケットにおいては季節や会社の方針によって上下はするものの、だいたい「目標粗利率25%」前後でした。
粗利率25%というのは、75円で仕入れた物を100円で売ることができた際の実績です。
粗利額=売上−仕入
↓
粗利額=100−75=25円
粗利率=粗利額÷販売価格
↓
粗利率=25÷100=25%
よーし、何だ簡単だじゃあ仕入れ値75円の物は100円で売ろう、150円で仕入れた物は200円以下では売らなければいいんだろ。
そう上手くは行かないのです。
この記事では売上金額のことは置いておいて「粗利率25%」の達成を目標とするという前提で話を進めていこうと思います。
また、本来であれば「粗利額」の達成こそ重要なのですが、ここでは「粗利率」基準で書いていきます。
販売価格を決めよう! ―値入率とは何か
商品の売価を決めることを「値入れ」と言います。
おおよその新入社員が最初に学ぶことは商品陳列や加工の仕方で、その次に教えられることは「値入率」の計算の仕方です。
値入率とは、ある商品の売価うちの利益の割合のことです。
値入率=(売価−原価)÷売価×100
何やら難しそうな計算式ですが、慣れれば問題ありません。
スーパーマーケットの主に生鮮部門の人は毎日この計算式に基づいて電卓を叩き、商品の販売価格を立案しています。
例えば原価70円の商品があったとして、「100円で売る場合は(と電卓を叩き)値入率30%か。140円だとどうだろう(電卓カタカタカタ…)値入50%だな。でも140円じゃちょっと高いかな。いいや100円で売っちゃえ」というようなことが毎日行われています。
おや、粗利率25%を目指すなら上記の値入率30%はずいぶん儲かる計算だな、と思いがちですが実はそうでもないのです。
ロス(値下げ・廃棄)率も考慮しよう! ―だいたい5%程度
仮に全ての商品の値入率が30%だったとしてそれがそのまま全て売れれば粗利率は30%で確定となります。
しかし、実際にそう上手くは行きません。
たくさんの商品がある中で、消費期限の迫った商品や鮮度不良商品については日々値下げをしなければならないですし、消費期限切れ商品や腐ってしまった商品は廃棄しなければなりません。
これら値下げや廃棄のことを、ここではまとめてロスと呼びます。
ロスのない店はありません。
特にスーパーマーケットにおいては、例えば「鍋野菜セット」「天ぷら野菜セット」のようなあまり売れない商品でも本部から品揃えの一環として販売せよとのお達しが来て、嫌々ながらある程度の数を置いておかなくてはならない場合があります。
たくさん発注したけれど思ったよりも売れずに在庫になってしまい、鮮度不良になる前に泣く泣く安い値段で叩き売りしして在庫を一掃しなければならない場合もあるでしょう。
その他、日々、細々とした値下げや廃棄対象品が売場から発掘されます。
私が勤めていたスーパーマーケットでは「ロス率は5%以内に収めよ」という目標が掲げられていましたが、青果部門の場合、すべての商品にバーコードが付いているわけではないので、そのロス率を正確に割り出すこともなかなか難しいのが実情です。
上記の例の「大量の発注品が在庫になってしまって、泣く泣く叩き売りした」というのはデータには表れないロスである場合があります。
ロスをゼロにすることは事実上不可能だと思ったほうがいいでしょう。
つまりは、計画は必ずしも計画通りに運ぶものではなく「値入率30%=粗利率30%」では決してないということです。
販売価格を決める基準ってあるの? ―値入率の基準とは
つまりはロスのことを考慮して売価を設定しなければならないということになります。
目標粗利率を達成するためには〇〇円で仕入れた商品をいくらで売ればいいのか?
その基準になる指針が値入率です。
おおよそのスーパーマーケットの青果部門では「目標粗利率+5%」を値入率の基準とする場合が多いと思います。
ロス率を5%と仮定すれば、ちょうど粗利率が確保できるという計算です。
私のスーパーマーケットでも新入社員の時に「70円で仕入れた物は99円で売ればいい」とまずは大雑把に教わりました。
(99−70)÷99×100=29.2929…
つまりは、値入率29.3%であり、だいたい30%というわけです。
もちろんこれはあくまでも基準であり、もっと儲けが欲しいという状況であれば128円で売っても構いません。計算すると値入率45.3%です。
ただ、値上げしすぎると売上が伸びなかったり、売れ残ってロスになるというリスクもあります。
バランスがなかなか難しいところですが、その戦略立案は腕の見せ所でもあります。
値入率の低い特売品に対処せよ!
なかなか計画通りには行かないと前述しましたが、その要素のうちのひとつに「値入率の低い特売商品」の存在があります。
もちろん、特売・売り出しは来客数と売上を伸ばすためのスーパーマーケットの戦略のうちのひとつでなのですが、特売商品の中には値入れ率数%という物もあります。
例えば、春キャベツは青果部門にとっての一大イベントでありものすごい数が売れるのですが、原価95円で特売価格99円だったりします。大型店舗であればこれが一日で100ケース(800個)も売れたりするわけですが、値入率4%の商品ですから売れれば売れるほど粗利率実績は下がっていくわけです。
当然ながら特売商品が悪いわけではありません。お客さんが来ないことには何も始まらないからです。
ですが、何の対処もしなければ目標粗利率を大きく下回ることとなってしまいます。
特売品の値入率が低いのであれば、他の商品を値上げして相殺するしかありません。
そう、つまりはすべての商品に一様に同じような値入率を課すのではなく、値入率の低い商品(特売、お買い得商品)と値入率の高い商品を売場に配置し、トータルで粗利率25%を目指すというわけです。
これは「値入れミックス」と呼ばれ、基本的な戦略となります。
値入れミックス戦略!
よく「マクドナルドはポテトで儲けている」と言われます。
それはつまり、メインであるハンバーガーの値入率を低く設定してお客さんを来店しやすくし、ついで買いのポテトの値入率を高くしているということです。個々の商品でというよりも、店舗トータルで粗利率の達成を目論んでいるというわけです。
それが値入れミックス戦略です。
スーパーマーケットにおける使命は、お客さんを飽きさせないことです。特に青果部門は入り口に配置されていることが殆どですので、そのスーパーマーケットの顔と言っても過言ではありません。
お客さんを飽きせないための最も簡単且つ効果的な手段は、毎日何か一品でもいいから驚くようなお買い得品を提案することに尽きます。
そうすることによりお客さんは「今日は何が安いだろうか」とそのスーパーマーケットに足を伸ばすきっかけとなり、足を伸ばすお客さんが増えれば売上も向上するのです。
お買い得品を毎日提案して魅力的な売場にすることによって売上は伸びるけれど、値入率の低い安売りばかりしていたら粗利が確保できない。
そこで値入れミックス戦略が登場するというわけです。
繰り返しになりますが「値入率の低い商品=お買い得商品」と「値入率の高い商品=利益確保商品」を売場に配置し、総合的に粗利率の達成を目指します。
つまり、値入れミックス戦略は利益確保だけでなく、日々のお買い得商品の提案における売上向上の戦略でもあるということです。
利益確保商品を知ろう! ―きのこ、土物野菜など
「値入率の高い商品=利益確保商品」とは具体的にどの商品を選定すればいいかというと、一般的には「きのこ」と「土物野菜(玉ねぎ、じゃがいも、にんじん)」が適役と言われています。
理由は、腐りにくく売場に長く置いておけるからです。焦って安売りしなくていい。
戦略にもよりますが値入率40%〜50%でも構わないでしょう。
もちろん、きのこや土物野菜の特売も入ることがありますが、特売が終わったら値段はすぐに元に戻すこと。
玉ねぎとじゃがいもは常に298円〜398円の大袋もしっかり品揃えして商品単価を上げると効果的です。
売場展開としては特売品の隣に利益確保商品をしれっと展開することは定石です。
例えば、春キャベツの特売であればその隣や裏に「ポトフにどうぞ!」などとPOPに書いて玉ねぎ・じゃがいも・にんじんとぶなしめじを展開してみること。
白菜が特売だったら、その隣にガッツリ値入れの高いきのこ類を配置してみること。
各々に合った戦略でいろいろ考えたり試してみたりしながら粗利率確保を目指しましょう。
【重要】在庫を持たないこと!
最後に、在庫は悪です。
在庫を抱えると途端に仕事の効率は悪くなることに加え、在庫の中から鮮度不良品が出てきたり早く売ってしまおうという焦りから安売りしてしまったりで、粗利率が確保できない原因となります。
そのためにも発注はしっかりと検証しながら行うことをおすすめします。
昨年売上データと直近売上データを参考に、きちんと電卓を叩いて発注すること。
どんぶり勘定でなんとなく10ケース発注というのはあまり良くないです。
1ケース単位できちんとその日売れるだけを発注しましょう。
在庫過多になってしまうのは仕方のないことです。
売れると思ったけど売れなかったとか、チャレンジしてみたけれど結果がついてこなかったとか、大雨で売上が不振だったとか、本部や市場に大量の商品を押し付けられたとか、よくあることです。
重要なことは、そんな中でもきちんと在庫量を把握し、商品ごとの在庫金額を算出し、戦略的に発注をすることです。
漠然と発注するのではなく、金額を算出した上で発注します。
きちんと電卓を叩いて、直近売上データと照らし合わせれば「大根は現在3日分の在庫があるからしばらく発注しなくていいな」と数字でわかるというわけです。
漠然と発注してしまうことによって「今20ケースあるけどなんか不安だから5ケース発注しておこう」と、さらに在庫を増やしてしまう結果となってしまうのです。
スッキリした在庫から全ての戦略は始まります。
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