たいていの企業が求める人材の代表例として「行動力」「リーダーシップ」「コミュニケーション能力」が挙げられます。どの会社も殆どそう。就職・転職戦線は極めて熾烈なものだから、その渦中にあってはまるで「慎重」「サポート役」「単独行動を好む」という要素を秘めた内向的な人材は人間失格であるかのようにさえ思えてしまうほどです。
実は、現在のように明るく、朗らかで、誰からも好かれる外向的な人材が社会にとって好ましく思われるようになったのは、つい100年ほど前からに過ぎません。大量生産・大量消費による新しい経済がセールスマン(営業職)という職種を生み出したことによるものです。いつも笑顔で社交的でお喋りな人間は皆に良い印象を与え、たくさんの商品を売ることができるからです。
農村社会から工業社会への変革も、外向的な人が重宝されるようになった点においては重要な要素です。人々は村の中でそれぞれの役割を果たして一生を過ごすのではなく、都市に出て見知らぬ人と働くようになった。そうなれば、初対面の人と一瞬で打ち解けてうまくやっていける人のほうが必要な人材とされたのでした。
このようにして外向型人間の躍進によって、内向的な人間は隅に追いやられ「消極的」「何を考えているのかわからない」「スピードが遅い」との誹りを受け、何事も深く考えてしまう内向的性格ゆえに体調を崩したりしてしまうのでした。
一方、仕事が速い割に雑、約束を守らなくても平気、物事を深く考えられず反省もしないという外向型人間はその短所を大々的に指摘されることなく、また自ら反省することもなく脳天気に社会に幅を利かせているのでした。やれやれ。
だけど、そんな時代はもう終わりだ。社会の急速な変革によって、ガサツな外向型人間の天下はたった過去100年間の話になる。これからは内向型人間が重宝される時代が到来する。確実に。
以下「内向的性格の人材が確実にこれから仕事で有利になっていく3つの理由」を述べていきましょう。
在宅勤務・フリーランスの時代 ―社会のソロ化
会社に集まって仕事をするのが当たり前だった時代は変革しつつあります。というのも、日本においても実験的に在宅勤務を導入する企業が増えてきているからです。
在宅勤務は内向的な人に向いている仕事のスタイルです。孤独に強い、集中力が高い、成果を出すために粘り強く取り組める――など、内向型のメリットを存分に活かせます。
逆に、外向型はコミュニケーション能力と仕事のスピード、瞬時の判断能力、マルチタスクが強みですからどうしても在宅で一人でこもって仕事をするとなると素質を生かせそうにありません。
これからは在宅勤務を導入する企業が増えてくるでしょう。在宅勤務が可能になるくらいITテクノロジーが発展したことはもちろんですが、それだけ内向型に適した仕事が増えてきているという証左でもあるように思います。
また、日本も終身雇用制が殆ど崩壊しつつあり会社に縛られる時代からフリーランスの時代へと変革がなされようとしていますが、様々なことを注意深く考えることができ、クオリティの高い仕事を果たすことができるという意味ではフリーランスも内向型に適していると言えます。
インターネット技術によるセールスマンの淘汰 ―知識社会化
IT革命によるインターネットテクノロジーによって大打撃を受けた職種のうちのひとつがセールスマン(営業職)であると私は考えます。対人コミュニケーションでモノを売り込む市場はもはや縮小傾向にあると考えていいでしょう。
その代わりにインターネット技術者が重宝される時代になっています。インターネット上でモノを売り込むのは営業マンではなく、技術者が実装したプログラムです。100年前に誕生したセールスマンという職業は、絶滅することはないでしょうけれど確実にその活躍の場が狭まり、淘汰されゆく運命にあります。
「対人コミュニケーションでモノを売り込むのもインターネット上でモノを売り込むのも大差ない、モノを売るのは外向的人間が有利だ」と思うかもしれませんが、そうでもないのです。
・アダム・グラント教授の研究によれば、電話勧誘の成績と外向性とは何の関連もなかった。(参考文献:『内向型人間のすごい力』)
・ネガティブな人(=内向型)の方が話に説得力があり、見ず知らずの人を相手にした場合は更に説得力が高くなる。(参考文献:『ネガティブな感情が成功を呼ぶ』)
現代はコミュニケーション不全の時代などと言われますが、それは良くも悪くも、外向的な人がその役割を果たせなくなりつつある時代であると言えるかもしれません。
あるいはそれらを大きなくくりで知識社会化とみなしてもいいでしょう。内向的な人は「物事を深く長く考えることができるので知的パフォーマンスが高い」というのは複数の研究結果によってはっきりと示されています(知能が高いのではなく、問題解決能力が高い)。急速な知識社会化は内向型人間にとって圧倒的有利な状況です。
ブロックチェーン技術による仲介業者の淘汰 ―組織の急速な減少
ビットコインが機能している仕組みとして知られているブロックチェーン技術は消費者と消費者を中央管理者なしで直接繋ぐことを可能にする技術として大変なる注目を浴びています。ブロックチェーン技術が進歩すれば仲介業者の淘汰が進むのではないかと言われています。
例えば、メルカリやヤフオクで商品を売買する時、私たちは出品者と購入者で直接やり取りしているように思えますが、商品は購入者への直送でも、お金の流れはそうではありません。メルカリやヤフオクという中央管理者を経由し、必ず中間マージンを取られます。それがネットオークションやフリマアプリのビジネスモデルです。
ですが、ブロックチェーン技術が今後進歩すれば仲介業者を介することなく正真正銘の消費者対消費者の直接売買が可能になると言われているというわけです。
仲介業者の仕事は要するにセールスと調整であり、それは外向型人間の得意とするところです。それが淘汰されてしまうとなれば、外向的な人の行き場がなくなってしまうことが懸念されます。それはまるで、100年前からつい最近まで内向型人間の行き場所が失われていたのに似ています。
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上述したように、外向的な人はコミュニケーション能力には長けているけれど、実際にセールスの成績が良いかというと実はそうでもないのです。また、外向型は仕事は速いけれど正確さは二の次。とすれば、外向型人間の長所は「組織の統率能力に長けている」の一点に絞られてくることがわかります。
ですが、ここまで見てきたように、在宅勤務の推進、フリーランスの増加、ブロックチェーン技術による直接売買の可能化と社会はソロ化してきています。外向的人間の強みを生かすための組織がそもそも減少傾向にあるというわけです。
ソロ社会にあっては内向型の独壇場です。まして、内向型はセールスが苦手というわけではない。きちんと相手の立場に立って順序立てて説明できるから強力な説得力を持つのです。
さあ、これからは内向的人間がその可能性を解放しどんどん活躍していく時代であるということがおわかり頂けたでしょうか。
参考書籍:
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