タバコに含まれるニコチンには依存性があるので、私たちの禁煙は往々にして頓挫してしまう、と良く説明されます。そうか、悪いのはニコチンだけだ、と考えてしまうのは尚早です。ニコチンに依存性があることは確かなのですが、それ以外の小さな要因もあるということが本稿の主題です。
結論から言うと「吸う」という行為は脳内物質「オキシトシン」の分泌を促進するということです。下記で詳しく見ていきましょう。
オキシトシンとは何か?
オキシトシンとは「恋愛ホルモン」「愛情ホルモン」「幸せホルモン」とも呼ばれる脳内物質です。その名の通り、私たちに愛情や多幸感をもたらす非常に強力なホルモンです。
オキシトシンは人と他愛ない話をするだけでも分泌される他、人と触れ合う・手を繋ぐなどのスキンシップによって大量に分泌されます。そして、そのオキシトシンは「吸う」という行為によっても分泌されます。子どもは母乳を吸ったり、親の手などをおしゃぶりをすることによって愛情を確認していると言えます。
そう、つまりはタバコを「吸う」ことによってオキシトシンの恩恵を受けることができるというわけです。これは科学的に確認されていることです。
喫煙ルームで観察されるオキシトシンの効果
吸うという行為自体によって口から得られる満足感のおかげで赤ん坊もオキシトシン値が増え、母親との絆をますます強く感じる。大人の場合、吸うことによって引き起こされるオキシトシンの放出は、喫煙の中毒の一員となっていると言えそうだ。喫煙者がたちまち打ち解けるのも同じ理由からかもしれない。何の共通点もない喫煙者どうしでも、タバコか火を求められたらたいてい差し出す。
『孤独の科学』J・T・カシオポ/W・パトリック、河出文庫、P223-224
私はかつてタバコを吸っていましたが、そう考えれば、喫煙者には独特の行動様式があるようにも思えます。
まず、タバコを吸う者同士は特段に仲良くなりやすいように観察されます。喫煙ルームではある種の連帯感やコミュニティのようなものが非常に出来上がりやすい。私はあまり人と話すのが得意ではないのですが、それでもかつて勤めていた会社では喫煙ルームで話がよく弾んだことが思い出されます。
喫煙ルームでは人は気前が良くなるようにも思います。知らない人から「火を貸してください」と言われると大抵は快く貸すし、「申し訳ないのですが、タバコ一本ください」と言われてもそれほど抵抗なく与えると思われます。少なくとも私はそうでした。
また、オキシトシンは愛情を喚起するものであると同時に、排他的な感情を生み出すとも言われます。オキシトシンが母子の強い愛情の絆になる反面、その絆を脅かそうとする存在には敏感になってしまうということです。喫煙者において顕著なのがタバコをやめようとする者に対して敵対心のようなものが生まれてしまうことです。また、他人にタバコを勧めてしまうのも愛情の確認のような意味合いがあるのでしょう。
タバコは孤独感を解消するか
喫煙は健康を害するのは確かであり、ニコチンによる依存性があるのは確かですが、上述してきたようにタバコ中毒の一因として喫煙によるオキシトシンの分泌も挙げても良さそうです。ニコチンとオキシトシンの相乗効果によって中毒性が増している、ということ。私自身、タバコを吸っている時は心が非常に落ち着くのを感じていました(ただ単に吸いたいイライラが解消されているだけという見解もありますが)。
タバコには孤独感を解消する作用があるようです。もちろん、喫煙は当人の健康を害するだけでなく、受動喫煙によって周囲の健康も損なうものなので、本稿の論旨は「孤独ならタバコを吸おう」ということではありません。
タバコをやめられない原因には「ニコチン依存」の他、「習慣になっている」「周囲の人間が吸っている」などの理由が挙げられますが、そこにオキシトシン中毒、すなわち「孤独を感じている」を付け加えることによって、禁煙をしたいけれど挫折してしまう人が自分自身を客観的に見つめ、生活の改善などを経てスムーズに禁煙を達成できる一助になる可能性があるということです。
参考文献:
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