山奥での「小屋暮らし」をすることで生活コストを下げ、何物にも縛られずに自由に暮らすことができると喧伝されることがあります。社会のしがらみに疲れ果ててしまった人にとって小屋ぐらしはユートピアのように映るようです。
一般に、小屋暮らしで質素な生活をすることで「生活費月3万円」が可能であると言われますが、それは本当なのか、本稿で検証していきたいと思います。結論から言えば「不可能ではない」です。
小屋暮らしの生活費の概算(1ヶ月あたり)
家賃 0円
食費・雑費 15,000円
水道光熱費 0円
スマホ・インターネット 4,000円
交通費 4,600円(ガソリン代含む)
国民健康保険料 5,000円
固定資産税 1,400円
計 30,000円
詳細の解説
家賃 0円
小屋暮らしの最大のメリットとして、家賃がかからないという点があります。土地を購入するにしても誰かから借りるにしても、賃貸暮らしよりは低いコストで運用することが可能でしょう。
小屋暮らしのための先行投資額は、高村友也さんの著作によれば100万円程度だそうです。例えば、現在月5万円の賃貸物件に住んでいるなら、単純計算で2年かからない程度の小屋暮らしで回収できる額です。但し、逆に考えれば、小屋暮らしの2年間を耐えられなければ先行投資額は無駄になってしまうということでもあります。
また、周辺環境の整備や害獣・害虫対策、防災対策は自分で行わなければなりません。具体的には、家回りの草刈り、熊が出没したらどうするか、家の中に虫が入ってきても耐えられるか(高村さんは寝床でヒルに噛まれている)、大雨による浸水などです。それらのデメリットは充分に勘案しなければならないように思います。
食費・雑費 15,000円
お金をどのように使うかは個人差があると思います。食べることが幸せだと思うなら食費は割高になるでしょうし、食費以外の雑費にお金をかけたいなら食費:雑費の割合は変わってくるでしょう。従って、ここでは食費と雑費をひとまとめとして「自由に使えるお金=変動支出」と提示しています。
おそらく最も大きな割合を占める生活コストが食費でしょう。食費を1日300円にすれば、1ヶ月10,000円以内に収めることができます。1日300円というのはなかなか尋常でない数字です。完全自炊は当然として、様々な工夫がなければまず不可能でしょう。
菜園を作って自給自足をするにしても肥料代や農薬代がかかってきます。主食である米は自分で作って収穫するよりも買ってきたほうがコストを抑えられる可能性があります。健康のためには野菜だけでなく肉や魚も食べたほうが良いですが、それらは外部から購入するのが合理的でしょう(保存の関係上、缶詰が便利か)。
など、小屋暮らしの食の面において考えるべきことはたくさんあります。もしかしたら、食費については小屋暮らしよりも賃貸アパートに住んだほうが手軽で且つ安く抑えられるのではないかと考えています。地方都市で一人暮らしの私の1ヶ月の食費は15,000円です。
水道光熱費 0円
小屋暮らしにおける最大のネックは電気・ガス・水道のライフラインを自給自足にするしかないということです。電気は太陽光発電、ガスはボンベを買ってくる、水道は小川の水を汲むという手段があるとは思いますが、不便であるに違いありません。考えられるだけでも下記の問題があります。
・冷蔵庫がないので食料を保存できない
・食料を調理するためには電気かガス(要するに火)が必要
・トイレと風呂の問題
・洗濯の問題
・清潔な飲料水の確保
・夏の暑さと冬の寒さ対策
枚挙に暇がありませんが、これらを克服することができれば水道光熱費は0円に抑えることができます。ちなみに、私の1ヶ月の水道光熱費は多い時期で1万円、少ない時期で5千円程度です。月1万円を支払って快適を確保するか、月1万円も支払うなら小屋暮らしをするかという問題であると思います。
スマホ・インターネット 4,000円
これら通信費はなくてもいいのですが、ネットビジネスで収益をあげて小屋暮らしを維持するという策略があるなら、あったほうがメリットになります。最安のプランで月500円(格安SIM)程度、あるいは月3,000円程度支払えばもっと快適に使用することができるでしょう。何かを調べたり情報を得たり、日雇いの仕事を探したりするためにも、インターネットは確保しておいて損はないと思います。
ちなみに、スマホやパソコンで細々とビジネスを維持していくなら、それらが壊れた時のため、ある程度の貯金をしておくべきでしょう。なので多めに計上してあります。
交通費 4,600円(ガソリン代等)
ずっと小屋から出ない生活をするのであれば、あるいは交通手段を徒歩・自転車にするならば交通費はかかりません。だけど、おおよその小屋暮らしや山奥で暮らしている人はバイクを交通手段としていることが多いように思います。バイクで日雇いの仕事に向かって生計を立てている人もいます。
仮に原付バイクを交通手段とするとして、ガソリン代は月に数千円。バイクの修理費などが将来的にかかるとして月4,600円を計上しています。
各種税金
節約術などの本やネット記事における「月5万円で暮らす!」などの謳い文句には税金が計上されていないことが多いです。それなりの年収があるなら税金だけで月3万円程度は飛んでいきます。ここでは月3万円を稼いで小屋暮らしを継続していくと仮定して、税額を算出していきます。
国民健康保険料 5,000円〜7,000円
月収3万円であれば、年収36万円。基礎控除額は38万円ですので前年所得はマイナスとなり、国民健康保険料7割減額が適用されます。居住している自治体によってばらつきはありますが、およそ月5,000円〜7,000円程度になると見込まれます。
市県民税(住民税)0円
前年所得がマイナスであれば市県民税(住民税)は均等割さえも納税しなくて済むので、非課税となり0円を実現することが可能です。どの程度の所得で非課税になるかは自治体によってばらつきはありますが、所得マイナス世帯は基本的に非課税になります。
国民年金 全額免除0円
前年所得が58万円以下であれば全額免除にしてもらう権利があります(※要申請)。国民年金は必ず将来的にプラスのリターンになるので、納めるか減額免除するかは各々のライフプランによります。一つ言えることは、未納のまま放置するならきちんと減免申請をしたほうが良いということです(参考:国民年金機構)。
固定資産税 1,400円
どの程度の小屋を「固定資産」とみなすかについては地方自治体によって違いがあるようですが、実際に小屋ぐらしをしている「からあげ隊長の日記」によれば年間で16,500円、月額1,400円程度の固定資産税がかかっているようです。地価などによって税額が変わってくるようです。
まとめ:コストをとるか、便利さをとるか
ここまで紹介してきたコスト内に収めることができれば「月3万円で小屋暮らし」が理論上は継続して実現可能であるとわかります。但し、かなり不便でリスクの多い生活を余儀なくされることには違いありません。尋常でないサバイバル能力が問われるように思います。
ちなみに現在地方都市賃貸一人暮らしで個人事業主をしている私の1ヶ月の支出額は税金を含めて約80,000円です。もっと安い物件に引っ越したり、電気を無駄遣いしなければ更に安くすることは可能でしょう。『20代で隠居』が話題になった大原扁理さんは月7万円で暮らしているそうです。
月3万円という低コストでちょっと不便な暮らしをするか、月8万円という高コストでそれなりに快適な暮らしをするか、という個人の価値観の問題に帰結しそうです。私も一時期小屋暮らしに憧れたことがあったのですが、寝ている時にヒルに噛まれたくないので断念してしまいました。
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