これから失踪を試みようとしている人の最優先事項は「見つからないこと」でしょう。
衝動的に仕事を投げ出して逃走したにしろ、計画的に失踪したにしろ、失踪の第一要件は「見つからないこと」であり、それだけが失踪を失踪たらしめるかけがえのない要素に違いありません。
私の経験上、失踪にはコツがあります。
とはいえ、私は「失踪失敗者」。朝、職場を無断欠勤して行方をくらまし、2ヶ月後に実家に自発的に戻ってしまった。
従って、ここで述べるのは「失踪して新しい生活を始めるためのコツ」ではなく、「衝動的に失踪したはいいけどどうしようもない。せめて見つかりたくない」という刹那的な人向けのアドバイスであり、かつての私に向かって「こうしていればもっと長く失踪し続けられたよ」という助言に過ぎません。
衝動的に逃げてしまって、行くあてもなく、お金も未来もない。どうしよう。
だけど、せめて見つかりたくない、という人に向けて書いているのです。
1. 失踪宣言書を書いておく
私は「失踪宣言書」なるものを書かずに家を飛び出しました。まず、そんなものの存在は知らなかった。
人が一人いなくなったとなれば大騒ぎです。事件に巻き込まれた可能性があれば警察が動く。
しかしながら「失踪宣言書」を残しておくことで、自分の意志で失踪したことを表明でき、警察への捜索願は受理されません。
書き方は簡単です。
A4のコピー用紙でもチラシの裏でも何でもいいので、下記3点について記しておくのです。
・自殺の意志はないこと
・自分の意思で失踪すること
・失踪日時と名前
たったこれだけで、警察に探されているかもしれないという不安や恐怖とは無縁の失踪ライフを送ることができます。
もちろん、警察に探されていないからといって周囲への迷惑や心配が無になるわけではないけれど、少なくとも事件に巻き込まれたのではないことを表明することができます。
繰り返しますが、人が一人いなくなるというのは騒ぎでなのです。
誘拐されたのかもしれない、何かに巻き込まれたのかもしれない、命が脅かされつつあるのかもしれない、いま生きているかどうかすらわからない――。
何もわからないという状況が人にとっての一番のストレスであり不安です。
であれば、「自発的に失踪すること」「自殺企図はしないこと」を明確にすることによって近しい人の心配を少しでも軽減することに繋がるわけです。
2. 携帯電話(スマートフォン)の電源は入れない
携帯電話は失踪の敵です。
従って、完全なる失踪を目論む者は、手始めに現在の携帯電話を破棄することから始めます。
破棄することにためらいがあるなら、せめて電源は切りっぱなしにしておくべきでしょう。
電源を入れた途端に下記2点が襲来します。
大量の着信とメールによって失踪の意志が揺らぐ
失踪してやる!と衝動的に決めた直後は携帯電話の電源は切っているでしょう。
だけど、気持ちが油断したり、何かを検索したり、電話とかたくさん来てるのかなとか確認するために電源を入れた途端、まさに電話とかメールとかLINEとかがたくさん来ているのを目の当たりにしてしまう。
そして案の定、皆に心配されていることを知ってしまう。留守番電話に入った両親の声とかを聞いてしまう。
そうなってしまうと、遅かれ早かれ失踪は失敗に終わってしまう。
私も過去2度の失踪経験がありますが、いずれも失敗の原因は携帯電話の電源を入れてしまったことによるものです。
最初は失踪当日の夜に両親からの着信を取ってしまったこと、二度目は失踪から二ヶ月後に親から受信したメールでなんとなく気が緩んでしまったこと。
電源が入っていることで生存が明らかになる
失踪には2種類あって、ひとつは「生きているかどうかわからない状態にしておくこと」、もうひとつは「生きているらしいがどこにいるかわからないこと」。
もし前者の「生きているかどうかわからない状態にしておくこと」を画策するなら、携帯電話の電源が入っていて着信を受けられる状態になっていることで、電話をかけてきた相手に「少なくとも生きている」ことも知らしめることとなります。
そして、継続して電源が入っていることによって「充電がされている=生きる意志がある」ことをも知らせてしまうこととなるのです。
私は「生きているかどうかわからない状態にしておくこと」を画策していたにも関わらず、面倒になってある時から携帯の電源を入れっぱなしにしていました。地図が必要になったりウェブ検索に迫られることが多々あり、その度に電源をオン・オフすることが億劫になってしまった故の愚行でした。
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ちなみに携帯の電波によって位置が知られるかどうかについてはわからないのですが、私は一ヶ月ほど電源を入れっぱなしにしていても何も起こらなかったので、自発的な失踪と判断される場合においては携帯電話の電波によって位置を知られることはないと思います。
事件に巻き込まれている可能性があったり、自殺の可能性がある場合にはまた話は違ってくる可能性があります。
3. 預金・貯金は一度に多額を引き出しておく
これも私の間抜けな盲点だったのですが、私は失踪期間中、お金を2万円ずつキャッシュカードによって銀行口座から引き出していました。
通帳は家に置きっぱなしだったので、両親が残高照会をすることによって「継続的にお金が引き出されている=生きている」ことを知らしめることとなってしまったのでした。子供の頃から使っていた銀行口座だったので、両親は暗証番号を知っていたのです。
大金を一気に引き出しておけば、生きているかどうかわからない状態にしておくことができたのだと思います
4. クレジットカードは使用しない
私は、失踪期間中にクレジットカードは使っていませんでしたが、もしクレジットカードによって支払いをしていたとして、明細が誰かの目に触れることとなれば大体の潜伏場所を知らしめることとなってしまいます。
クレジットカードの明細には、決済金額に加えて決済した店の名前まで記されています。
失踪期間中にはクレジットカードは極めて危険と覚えておきましょう。
5. クルマ(自家用車)の扱い方
私は、当初はクルマで移動していたものの「絶対に見つかりたくない」という思いから、一週間ほどでクルマを置き去りにして、電車&徒歩移動に切り替えました。
まず、主要道路に設置されている「Nシステム」によってクルマのナンバーが読み取られ、捜索願が出されているとすれば照合されて、居場所が知られてしまうかもしれないと思ったのでした。
いろいろネット検索をかけてみたのですが、Nシステムが失踪者を捜索するために活用されるかどうか判別がつきませんでした。
また、例えば、車中泊をしているところを職務質問をされる可能性もあります。
事故を起こしてしまったら(もらい事故でも)厄介です。
それでも、どうしてもクルマで移動したいという人は、田舎を目指すことをおすすめします。
都内やその周辺にはゆっくりと自動車を止めておける場所はありませんし、駐車料金もかなり高いです。
ですが、地方都市であれば24時間営業のレンタルビデオ店やスーパーマーケットの駐車場にクルマを停めさせてもらって車中泊をすることができるのです。
6. お金との付き合い方
失踪とお金の心配は切っても切れません。
できるだけ長く失踪し続けるためには、節約を心がけるのが最善の策です。
失踪初日などは解放感から少しくらい散財してもいいと思いますが、長期間の豪遊は失踪期間を縮めることとなります。
バイタリティのある人は日雇いバイトをするなどして日銭を稼いでもいいでしょうけれど、なかなか重い腰が上がらない場合が多いです。
まして、我々は失踪中の身であり、なかなかそういった人向けの仕事を見つけるのも一苦労でしょう。
私は、失踪時に80万円あった貯金が二ヶ月後には30万円になっていました。
多くはネットカフェへの宿泊費へと消えました。意外と高い。
以下、私がもう一度失踪をするならどうやってお金と付き合うか想像して書きます。
1. 格安ネットカフェを拠点にする
私が1ヶ月25,000円程度で長期滞在できるネットカフェの存在を知ったのは、失踪してから一ヶ月ほど経った頃でした。
それまでは、日々ナイトパックで宿泊しており、一泊あたり3,000円〜5,000円かかっていました。今思えばこれが大きな出費でした。
よくリサーチして、最も安いネットカフェに長期滞在するようにしたいです。
2. 野宿という選択肢も
季節や治安などとも関連しますが、安全が確保できるようであれば野宿にもチャレンジしてみたいと思っています。
私は自分の部屋の自分の布団でなければ寝付きが非常に悪いのでたった一泊の野宿でギブアップするかもしれませんが、チャレンジはしてみたい。
3. アフィリエイトやクラウドソーシングで稼ぐ
どうせ時間はたくさんあるのです。宿泊場所はネットカフェ。
であれば、パソコンを使って少しでも生活費を稼ぐことにはうってつけであるわけです。失踪期間を少しでも延命させることができるかもしれません。
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私が失踪した当時はクラウドソーシングなんてものはありませんでした。
けれど、今ではクラウドソーシングでバイト代くらい稼いでしまう人もいると聞きます。
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また、当時の私はアフィリエイトなんてものも知りませんでした。自分の趣味で作ったウェブサイトは持っていたけれど、アフィリエイトという発想はなかった。
失踪期間は、アフィリエイトのようなコツコツした作業と向き合うのに適しているような気がします。現に私は、 失踪後半は暇を持て余して自分のウェブサイトをいじったり、日記を書いたりしていました。
その労力をアフィリエイトに注ぎ込んでいれば、とふと思うことがあります。
まとめと所感
自ら進んでポジティブに失踪する人はいません。
悩みを抱えて爆発しそうな時、ふとしたきっかけによって衝動的な失踪は実行に移されます。
なぜそうしたのかはわからない。全く合理的な選択でないのに、そうすることしかできなかった。
私も、きっかけは単なる寝坊でした。前の晩に一人で死ぬほどアルコールを飲んで、夜明け頃に倒れるように寝た。
上司からの着信で目を覚ました瞬間に「逃げなくてはならない」と家を飛び出して会社を欠勤していました。
見つからないための有限の失踪に何の意味があるのかと問われても、私はうまく答えられません。
ただひとつ言えることは、あのとき私は自分の物差しで限界だったのであり、そうなるべくしてそうなったのだということ。
そして、2ヶ月の失踪の末に、自分の意志で実家に帰ってきたこと。
人生には誰でもそういう時間が必要なんだよ、だなんて一般化しようとは思いません。
失踪なんてしないほうがいい。誰にも心配や迷惑はかけないほうがいいに決まっている。
だけど今、「見つかりたくない」と思っているのなら、それが本心なのです。
その「見つかりたくない」を無責任に応援しようと思って、過去の経験者としてこれを書いた次第なのです。
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