銀行などで外貨預金が強く勧められているのを見かけたことがあるかもしれません。外貨預金とはここ日本であれば自国の通貨である円を米ドルやユーロに替えて預金することです。
一般的に外貨預金のメリットとしては以下の2点がよく説明されます。
1. 金利が高い
日本は超金利政策によって銀行にお金を預けても利子が全く付かないばかりか、未曾有のマイナス金利時代に突入しつつある。だけど、例えばアメリカの5年定期預金は金利1%であり、日本の銀行に円を預けておくよりも遥かに有利である。
2. 為替変動によって利益が得られる
円高ドル安(1ドル=80円)の時にドルを買い、円安ドル高(1ドル=120円)の時にそのドルを売却すれば、その差額分の1ドルあたり40円がそのまま利益になる。
このような利点があるなら資産運用という意味でもギャンブルという意味でも、外貨預金という選択肢を選んでみてもいいように思いますが、実際には外貨預金にはいいことばかりではありません。それどころか、「外貨預金には絶対に手を出すな」とはっきりと断言されている書籍さえあります。
外貨預金は絶対にやらないほうがいい。預金っていう名前がつくから、安全だと思ってはじめる人がいるんだけど、完全に銀行のカモだから。
『難しいことはわかりませんが、お金の増やし方を教えてください!』山崎元、大橋弘祐・著、文響社、P68
一見多くのメリットがありそうな外貨預金ですが、具体的になぜ「絶対にやらないほうがいい」のか。以下で見ていきましょう。
1. 手数料が高すぎる
一般的な銀行では1ドルにつき1円の手数料がかかることになっています。これはつまり、1ドル=100円の時に米ドルで100円を外貨預金すると手数料を含めれば総額101円がかかってしまうということ。10,000円で10,100円となり、100,000円で101,000円となる。
1ドル=100円の時の手数料が1円だから、1%です。冒頭で述べた通り、アメリカ本土の5年定期預金は金利約1%、日本国債10年もので約0.3%、一般的な銀行の10年定期預金で約0.1%。そう考えると、ただ単に日本円を外貨に替えるだけで1%もの手数料がかかってしまう外貨預金は損です。割高な手数料をドブに捨てるようなもの。
それに加えて、ドルを円に戻すときにも同様の手数料がかかると来ている。これが外貨預金は「手数料が高すぎる」と言われる所以です。
2. 金利が高いから得とは言えない ―外貨への長期投資は無意味
先進国の中で金利が高いことで有名なのはオーストラリアドルです。日本円を銀行に預けても利子は全くと言っていいほど付かないけれど、オーストラリアドルで預ければきちんと目に見える利子がついてきます。
オーストラリアドルが絶対的に得なのであれば、世界中の投資家や耳の早い人は全員オーストラリアドルを買って保有し続けるはずです。だって、購入して寝かしておくだけで高金利がによって元本が雪だるま式に増えていくわけですから、こんなに美味しい儲け話はありません。
ですが、実際はそうはなっていません。それどころかオーストラリアドルよりも、限りなくゼロに近い金利の円が大量に買われて円高になることさえあります。なぜか。それは、賢い人は「金利が高い=お得」ではないことを知っているからです。
金利が高くても、自国の通貨に換金してみたら為替変動によって損を被ってしまう場合があります。損とまでは行かなくとも、金利の高低という単純な指針によってだけでは簡単に得をできないようになっているのです。『臆病者のための億万長者入門』(橘玲・著、文春新書)から引用してみましょう。
為替というのは神秘的なものではなく、異なる通貨で取引されているモノの値段を同じにするためのたんなる道具だ。(P147)
「長期的には高金利の通貨は安くなる」――これが「金利平衡説」だ。(P153)
金利が高いという理由だけで誰かが長きに渡って得をできるようにはこの世の中はできていないということです。異なる通貨の価値がいずれ同じ妥協点に収束するなら、外貨預金をする私たちはつまりは手数料分だけを損するということになるというわけです。
つまり、外貨への長期投資は無意味であるということです。
3. 為替変動による利益を得ることはギャンブル ―短期投資は投資ではない
外貨預金でよく言われるもう一つのメリット、為替変動による利益ですが、こちらも必ずしも「お得」とは言えないというのが実情です。
例えば、ある時「1ドル=70円」になったとしましょう。これは「1ドル=110円」程度に見慣れてしまっている私たちからすれば未曾有の円高であり、これまで円高になったとしてもいずれは円安へと市場が推移してきたのを見てきた経験からすれば、「今、米ドルを買えば得だ」と思いがちです。
だけど、必ずしもそうとは言えません。損でもないし、得でもない。正確には損か得かは「誰にも分からない」のです。なぜなら、市場がこの先どのように変動していくかは誰にも――投資の天才にも――わからないからです。どんどん円高が進行し「1ドル=35円」と半値を付けてしまうかもしれないし、「1ドル=140円」と倍の値段になるかもしれない。
誰にもわからない。そこにあるのは専門家と呼ばれる人の見解と、私一人ひとりの予測と、市場というブラックボックスだけ。繰り返し強調しますが、将来の値動きを予測できる人なんて誰ひとりとしていません。そこにあるのは単なる結果論だけです。
であれば、為替変動によって利益を得ようと画策することはギャンブルに過ぎないことだけははっきりとわかってきます。コインを投げてどちらの面が出るかに賭けるのと同じ。ただ、メリットがあるとすれば、宝くじや競馬、パチンコなどのギャンブルよりも還元率は高い(手数料が低い)ということでしょう。
為替変動で儲けようとすること。それは投資ではなく、投機(機会に投資すること=ギャンブル)に他なりません。もし銀行に行って「外貨に投資しませんか。今は円高だから将来的に儲かりますよ」なんてセールスマンに言われたら、心の中で「それは投資ではなく、投機だ」と思うようにしましょう。で、そのギャンブルに乗ってもいいと思うなら自己責任で外貨預金をしてみてもいいかもしれません。
まとめ
以上見てきたように外貨預金は、
・市場の原理により長期的に得をすることはない
・為替変動で利益を得ようとすることは投資ではなくただのギャンブル
・そもそも手数料が高すぎる
という3つの理由によって推奨されるものではありません。投資目的で行うのなら「国債の購入」「インデックスファンドへの投資」「個人型確定拠出年金(iDeCo, DC)による積立」のほうがよっぽど合理的であると覚えておきましょう。
参考文献:
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