ベストセラー『難しいことはわかりませんが、お金の増やし方を教えてください』(山崎元、大橋弘祐・著、文響社)においては、次の記述があります。
家族がいないなら、どの保険にも入らないほうがいい。(P.144)
「どの保険にも」とは「生命保険にも、医療保険にも」という意味です。生命保険は家族がいないなら入らなくてもいいというのはわかりますが、医療保険については何か大きな病気や怪我をするリスクを考えると加入したほうが良い気がしてしまいます。けれど、本書においては「入らないほうがいい」と断言しています。
合理的で堅実な人生を送るためには医療保険は要らない。本稿においては上述の書籍の他に2冊の参考文献を元にして「医療保険に加入してなくてもいい5つの理由」を紹介していきます。
1. 貯金・年金で対応できるなら医療保険は必要ない
私たちが何のために医療保険に加入するかというと所得保障のためです。例えば、何らかの病気や怪我によって入院することになってしまったとすれば、医療費・入院費として出費を強いられる上に働くことができないわけですから収入はゼロ。そんなときに医療保険に加入していれば保険金を収入代わりにすることができ、家計を破綻させずに済むというわけです。
そう考えると医療保険は心強く思えますが、家計を破綻させないという明確な目的があるなら医療保険に毎月多額の掛け金を支払う以外にも選択肢はあります。そう、貯金です。いつ起こるかわからない病気や怪我による家計の逼迫を貯金によって対応することができれば医療保険は必要ないということになります。
下記で説明していく「医療保険は損な賭け」であることを考えれば、医療保険に支払う金額をそのまま貯金に回したほうが合理的な選択であると言えます。
ちなみに、年金受給者は定期的に決まった額の年金が貰えるわけですから、所得保障としての医療保険は必要ないという結論が導き出されることを付記しておきます。
2. 国民健康保険には高額医療費制度があるから医療保険は必要ない
保険とは万が一に備えるためのものです。自動車保険に意味があるのは万が一の事故によって数千万円や数億円の賠償責任を負うかもしれないリスクを毎月数千円の自動車保険によってヘッジしているためです。火災保険などもそう。本来、保険とは「滅多に起こらないけど起きたら莫大な責任を負う」ことに対応するものなのです。
そういう意味で言えば、日本における正しい医療保険は国民健康保険(会社員の場合は健康保険組合が代行)しかありません。病院にかかった際の医療費は被保険者はたったの3割負担で済むし、万が一の大病・大怪我の場合でも高額医療費制度によって自己負担額に上限が設けられてます。どれだけ高額な医療費がかかっても「これ以上は払わなくていいよ」というラインが敷かれているのです(そのラインは年収によって変わるのですが、例えば、年収約370万以下の人は1ヶ月57,600円以上は払わなくていいことになっています)。
国民健康保険はかなり手厚いです。そう考えれば、国保に加えて民間医療保険に加入してリスクをヘッジするよりも、自分で貯金をしておいた方が堅実な資産運用であるように思います。
3. 「損なギャンブル」だから医療保険は必要ない
生命保険及び医療保険は実は「損なギャンブル」「負の宝くじ」と言われています。医療保険とは、毎月保険料を支払う私たちが運良く(不運にも)病気や怪我に見舞われたら保険料が支払われるという性質のものですので、それは本質的にはギャンブルと何ら変わりありません。
宝くじの当選確率が天文学的数字であり、あらゆるギャンブルの中で還元率が圧倒的に低いことはもはや周知の事実ですが、生命保険・医療保険も同じくらい還元率の低い=無駄に保険料が高い代物であるということです。
保険会社は私たちの健康や生命に対するリスクを気遣って保険商品を販売しているわけではありません。保険会社は自社の利益のために企業活動をしているに過ぎません。企業の目的は利潤の追求・利益の最大化であり、その利益が私たちの支払う保険料からもたらされているのです。
つまり、保険会社が社員やセールスマンに支払う高額な給与、事務所の地代、テレビCMなどの広告費は私たちが支払う保険料から賄われているのであり、おおよそ保険料の半分は被保険者の保障以外に消えていくと言われています。ちなみに、宝くじの還元率は約40%ですから、同じようなものです。これが保険が「損なギャンブル」「負の宝くじ」と言われる所以です。
民間の医療保険はまさにギャンブルの様相を呈しています。病気になって入院したらかかった医療費以上の保障が支払われてお金持ちになった、入院太りしたというのはよく聞く話ですが、それは本来の保険の役割を逸脱しています。保険とは本来リスクを回避・相殺するためのもの。「入院したらお金持ちになった」という事例はまさにギャンブルに勝ったことと同義に思えます。
で、そのギャンブルは100万円分賭けたとしても理論上は約50万円しか戻ってくる見込みのない賭け。あなたはそれを合理的だと思うでしょうか。
4. 貯蓄型の保険は更に無意味であるから必要ない
保険には「掛け捨て型」と「貯蓄型」があります。「掛け捨てだともったいない気がする」という理由で貯蓄型を選ぶ人も多いようですが、貯蓄型の保険には何の意味もありません。掛け捨て型にしてその差額を貯金しておいたほうがマシです。その理由を下記に簡単に示しましょう。
1. 貯蓄型は手数料が割高である。保険に貯蓄の役割を持たせることで複雑化させ、そもそもの保険商品の価格を曖昧にした挙句に手数料を多く搾取しようとする保険会社の策略である。
2. 銀行や国が潰れる可能性よりも保険会社が倒産する可能性のほうが高い。従って、保険会社に貯蓄を預けておくよりも、銀行預金や国債によって資産を運用したほうがリスクが遥かに低い。
3. 保険会社は貯蓄型保険によって集めたお金を国債や定期預金によって運用している。その運用益は保険会社のものである。であれば、私たちが自分で資産運用すれば運用益を自分のものにすることができる。
5. がんには貯金で対応すべきだから医療保険は必要ない
国民の2人に1人はがんになると言われています。そのリスクに備えるために医療保険に加入しておいたほうがいいのかも、と思いがちですが合理的な結論としては逆です。つまり「2人に1人ががんになるからこそ医療保険は必要ない」のです。こちらも箇条書きで理由を下記に示しましょう。
1. そもそも保険とは「万が一のリスク」を回避するためのもの。自動車保険、火災保険がその例。2人に1人という高確率でがんになるならそれは保険ではなく貯金で対応すべきである。
2. がんの治療は国民健康保険の高額医療費制度の範疇であるから、がんによって巨額な治療費を支払うリスクはほぼない。
まとめ:それでも医療保険に加入する人のために
「保険とはリスクを回避するためのもの」という原則に基づけば、医療保険は特に独身者にとっては必要のないものであるとみなすことができます。医療保険というギャンブルに手を出すよりも貯金によって対処する方が賢いやり方です。
家族がいる場合も基本的には「医療保険は還元率50%の割に合わないギャンブル」という考え方は同じです。ですが、人生には万が一があるから困りものです。であれば、医療保険に入るか否かは個人の考え方によるでしょう。「保険は合理的じゃないから入らない」と思う人は入らなければ良いし、「万が一に備えておくことは重要だし、何かあったらと思うと不安だ」と考える人は加入するのが良いでしょう。
但し、加入する場合においても「得をするため」ではなく「リスクヘッジのため」というのは念頭に置いておくことは重要なことです。「医療保険で得をすることはない」ということから、医療保険に加入する際のたった一つの原則が導き出されます。それは「保障は必要最低限にする」ということです。
無駄にたくさんの保障を付けたとしても私たちは決して得をすることはありません。まして、その高額な保険料の半分は保険会社の経費となって消えていくからです。
損をしない人生のための参考文献:
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