むかしむかし、あるところに浦島太郎という釣り好きの青年がいました。
浦島がいつものように釣りへやってくると、海岸で一匹の大きな亀が子どもたちにいじめられているのを発見しました。
「おい、やめないか」
浦島の怒号に子どもたちは散り散りに去って行きました。
「助けていただいてありがとうございます」
「なに、当然のことをしただけだよ」
「いやいや、ほんと、助けていただいてありがとうございます」
「まあ、弱い者いじめは許せない質なんだ」
「そうですか。正義感が強いんですね」
「そうだな、まあね」
「…」
「…」
「じゃ、私はこれで」
「え、ちょっと」
「え?」
「や、あのさ、ほら、助けてあげたじゃん。ま、それは俺の正義感からなんだけど、でも、なんかさ、ほら」
「なんですか」
「わかんないかな、俺、いま、助けてあげたじゃん」
「はい」
「君、助かったじゃん」
「はい」
「じゃあ、ほら。その、ご褒美的な」
「あー」
「わかってくれた?」
「わかりますよ、わかります」
「だったら、ね」
「あのー、ちょっとですね。お腹が」
「え?」
「お腹が痛くて」
「うん」
「あれですよね。海の中に連れてってってってってことっすよね。あー、でもお腹痛いんだなーこれが。海って冷たいじゃないすか。お腹が痛いから、悪化しちゃうと良くないじゃないすか」
「まーそうだけど」
「だから、ちょっと今は勘弁」
「やー、でもさー、助けてあげたよね? それは事実だよね? じゃあ、連れて行かないまでもなんかその、箱的なやつとか代わりにくれないわけ? 竜宮城での豪華絢爛な豪遊はいいよ、この際。そんなに言うんなら。でも箱は欲しいなー。箱くれるって聞いてたから」
「そんなの持ってないっす」
「なにー!」
「や、だから、持ってないって」
「おい、てめえ、ふざけんなよ」
「てめえとは何だ。ふざけてんのはお前だろ」
そうこうして一悶着している時、海から一人の美しい女性が現れ、こちらに一目散に駆け寄ると、亀に向かって言い放ちました。
「ちょっと、何やってるわけ? 何もたもたしてんの? 今月のノルマ、未達なのあんただけだって何回言ったらわかるん? 先月も、先々月も。早く連れて帰ったらどうなの? 生け贄が不足してるの。あんたのせいよ。そこのドン臭い男でいいじゃないの」
浦島は話の矛先がこちらに向かっているのに気づきませんでした。なぜなら、その女性のあまりの美しさに惚れてしまっていたからです。
「でも、その、帰ったらまた怒られるかと思うと、なかなか戻る気にならなくて」と亀。
「お前は本当に出来損ないだね。今月も駄目だったらクビだっつってんだよ。あ? ちゃんと仕事して。あんたのために言ってるの。もういい、帰るわよ」
「うん、はい。すいませんでした」
「あの、お名前は」と浦島はやっとのことで声を出せました。
「あたし? あんたに何の関係があるの?」
「や、でも、あまりにも綺麗だから」
「お世辞をどうもありがとう。乙姫よ。これで満足? もう帰ります、さよなら」
「え、帰っちゃうの?」
「帰ります。忙しいの」
「もうちょっといればいいのに。悪いとこじゃないよ。うち来る?」
「行きません」
「ほら、こうやってせっかく知りあったわけだし、運命じゃないかなこれは」
「運命なんてありません」
「えー、でもさー」
「うるさい男ね、これあげるから、もう黙ってくれる?」と乙姫は箱的なものを浦島に投げつけ、亀を連れて海へと帰って行きました。
乙姫が帰って行ってしまったのは残念でしたが、箱を手に入れた浦島は気分上々でした
「これこれ、これを開けろっつって書いてあったな、たしか」
うろ覚えの知識で浦島は箱を開けました。
すると、中から大量の煙が出て来て、浦島を包み込みました。
しかしながら、浦島は竜宮城へ行っていないので、何も起きませんでした。
浦島は、乙姫に恋い焦がれながら、その後も変わらず釣りをして過ごしましたとさ。
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