怒り=悪じゃない。怒ることの知られざるポジティブな5つの効果

 怒りというものは人生における汚点である。
 怒りとは悪である。
 怒らない人のほうが優れている――。

 本当だろうか?

 一度でも怒りを露わにしてしまうと、「すぐ怒る人」「情緒不安定な人」「感情のコントロールのできない人」とのレッテルが貼られて、取り返しのつかないこととなる場合もあります。
 このような感情に身を任せた怒りは確かによろしくない。

 怒りに任せるには人生は短すぎる。

 怒りは君を幸せにしたか?

 映画『アメリカンヒストリーX』

 ですが、「怒り=悪」と片付けてしまうにはあまりにも短絡的であるように思います。
 すなわち、「怒りを戦略的に表すこと」や「怒りのエネルギーを利用する」ことが適切な場合もあり、それによりこちらに有利な状況を作り上げることが可能にもなるということです。

 本稿では、「怒りとは何か?」「怒りのもたらす5つのポジティブな効果」について紹介していきます。

 

怒りとは何か

 まず始めに明白にしておきたいことは「怒り」と「攻撃」は違うということです。
 ある研究によれば、怒りが表された中でそれが暴力に発展した例はわずか10%だったといいます。

 我々が怒りを生じるパターンには大きく分けて2種類あります。

 1. 自分が公正に扱われなかったと感じた時
 2. 自分が達成しようとしている目標を邪魔された時

 複雑な人間関係の中で腹の立つことや頭にくることが日々襲来してきます。
 その中で重要なことは、怒りを無闇に発散して「攻撃」に走ることではなく、怒りを「ツール」として利用することです。
 腹の立つ状況に効果的に対処するための道具、それが怒りなのです。

 ただ微笑んでいただけでは埒が明かなかった状況も、怒りを露わにした行動を少し取るだけで誰も傷つけることなく一瞬で解決する場合がある。
 それこそ怒りの効用です。

 そう、意外なことに怒り・怒ることには積極的に利用すべきポジティブな効果も認められるということです。

 

怒りのもたらす5つのポジティブな効果

1. 怒りはものの見方を楽観的にする

 スポーツ選手が奮い立つために自分を怒らせているのを見たことがあるかもしれません。
 そのように気合を入れることによって、自分の能力の限界を引き出すことができるのです。

 あるカードゲームを用いた実験によれば、怒りの感情を誘発されていた被験者グループは、他のグループに比べて大きなリスクを取る傾向にあったという。
 ギャンブルなどで、勝てない自分に苛立った結果、勝てるまで有り金を注ぎ込んでしまうというのはそのためです。
 賭け事においてはそれは悪い効果とも受け取ることができるかもしれないけれど、見方を変えれば、怒りは自分の可能性の限界を試そうとする気持ちを生じさせるとも言えるのです。

 怒りは、脅威に立ち向かうための準備です。
 そのため、「リスクを乗り越えて結果を自分でコントロールできる」という気持ちになるのだと考えられます。

 

2. 怒りは創造性を高める

 怒りと創造性は、なかなか結びつかないかもしれません。
 怒りは物事の見境をなくしてしまうような破壊的な感情と思われているからです。
 創造性のような知的で冷静さが求められるようなものとは関係がないどころか、怒りによって創造性は失われるのではないか。

 半分は正解で、半分は間違い。
 すなわち、怒りによって創造性が高まる場合もあるということです。

 被験者たちに、わざと怒りを誘発した後に創造性を図る問題を解いてもらうという実験を行ったところ、怒りを自制しようと努めた人たちに限っては創造性が上がったことが確認されました。
 逆に、自制心のない人や反抗的な人は、怒りの感情によって創造性は低下してしまった。

 つまりは、怒りの感情の全てが悪いわけではない。
 少なくとも創造性を生む(場合もある)というメリットがあるのです。

 

3. 怒りには仕事の効率を高める効果がある

 リーダーが苛立ちを露わにすることによって、組織の生産性が高まることがあります。
 そのリーダーの表情を読み取った部下がテキパキと仕事をこなし始めるからです。

 また、例えば授業が始まっているにも関わらずガヤガヤとした教室。生徒は各々おしゃべりに夢中になっている。
 教師が「静かにしなさい」と穏やかな調子で何度か言っても、あまり効果がないようだ。
 そこで教師はドンッと自分の机を叩いた。
 教室中に響き渡る音。何事かと一瞬にしておしゃべりをやめる生徒たち。
 教師は静まり返った教室で何事もなかったかのように授業を始めた――。
 怒っているということを机をわざと叩くことによって表現して、生徒たちを黙らせることに成功したのです。
 私が中学生のときに実際にあった話です。

 注意すべき点は、この場合の怒りは戦略的に発動されるべきであるということです。
 つまり、怒髪衝天で見境なく喚き散らしてしまうような怒りの表現方法ではなく、ここぞという場面で「私は怒っている」ということをスマートに伝えること。
 感情に任せること、多用することは、いずれその効果は薄れていくのです。

 

4. 怒りは交渉を有利にする

 怒りを露わにすることによって、交渉事を自分の思い通りに進めることが容易になることがわかっています。

 携帯電話をできるだけ高額で売る架空の交渉をしてもらう実験によれば、「怒りを表す相手」「機嫌のいい相手」「普通の相手」の3種類の買い手のうち、怒りを表す買い手には高い値段で売ることができなかったとしています。
 「そんなに高くちゃ買えねぇぞ! もっと安くしろ!」と言われると、しぶしぶ値下げに応じてしまうからです。

 そう、怒りを表すことによって強い人だと相手に錯覚させることができ、その時点で優位に立つことができるのです。

 但し、注意点としては、怒りを演じることは逆効果であると確認されています。
 「上っ面の怒りを演じた相手」に対しては、売り手はその怒りが嘘であると見抜くと強気に出ました。信用ならない相手であると見たからです。
 本当に怒っている相手ではこうはならないでしょう。

 

5. 怒りは不正や不当に対して人々を一致団結させる

 社会を動かすのは人々の怒りです。
 かつて黒人が不当に扱われていた時代、権利獲得のために一致団結させたものは他でもない怒り。黒人に対するたった一件の不当な暴力事件が怒りに火を点け、大規模な運動に繋がった例もあります。

 最も重要な仕事は、人々を組織してまとめ、彼らの怒りを、物事に変える力にすることである。

 マルティン・ルーサー・キング

 独裁者の圧政を転覆させたのも民衆の怒りです。
 人々の怒りがfacebookを通じて一致団結させて長年君臨し続けた独裁者を追放したアラブの春は記憶に新しいところ。

 怒りほど力強い感情はありません。
 しかもそれは、利他的行為に結びつくことさえあり、何らかの信条を達成しようとする強い原動力となるのです。
 そう、誰かを救うために怒りが発動されることもあるということです。

 そのように考えると、怒りがただ単にネガティブな感情であるというのは偏見であることがよくわかります。
 愛や親切心などと対立するのが怒り、という構図は少なくとも間違いです。

 

まとめ:「怒り=悪」ではない。怒りを否定するのはやめよう

 怒るという行為は必ずしも悪ではないという例を見てきました。
 かといって、手放しで善と言えるかというと、もちろんそうでもありません。

 怒りを抑制することは賢明なことには違いありません。
 多用は避けるべきだし、誰にでも見境なく怒るのも有用とは言えない。
 感情に任せて喚き散らすことも良くない。節度というものがある。

 だけれども、怒りを表現すること、「私は今怒っている」ということを礼節をもって表明することは、特定の状況下においては適切な行為であるということです。

 「怒り=悪」ではない。
 ですから、あなたの心の中に沸き立った怒りの感情を否定する必要はないし、あえてそれをさらけ出すことも時には必要であるということです。

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