世のビジネス書や自己啓発書には「直感で行動すればうまくいく」という主張がなされているものが散見されます。その解釈を「悩んだり恐れているくらいなら、まずはとにかく行動してみよう」とするなら、たぶんそれは正しいでしょう。
実体験として、私は臆病者で行動する前にうじうじと悩んでしまう性格なのだけれど、「うまくいくかどうかなんて誰にもわからないから、とりあえずやってみることが肝要」であると何かの本で読んだことがきっかけとなって、前々から計画していたことを「とりあえずやってみた」ことが、現在、小規模ながら自分でビジネスを始めるきっかけとなりました。
だけど、誰かが言った「直感で行動しよう」をそのまま鵜呑みにして、何も考えずに手当たり次第に行動してしまうことは危険なことであると私は考えています。
「直感で行動する」ことと「よく考えて行動する」ことの間に優劣はありません。本稿においては、現在持て囃されすぎている感のある「とにかく直感で行動する」ことに警鐘を鳴らし、「直感で行動する」ことと「よく考えて行動する」ことをバランス良く取り入れることを推薦するための根拠を示していくものです。
元来臆病者で、メリットよりもデメリットやリスクの方に意識が向きがちな私のような人にとっては「直感で行動せよ」と言われてもイマイチ心に響かないでしょう。本稿はそういう私に似た人のために書かれています。
1.『エッセンシャル思考』と『多動力』 ―相反する2つの考え
全米ベストセラー『エッセンシャル思考』(グレッグ・マキューン著、高橋璃子・訳、かんき出版)の稀有な点は「行動力」よりも、それ以前の「何を行動すべきか良く考えること」こそが重要であると一貫して主張されているところにあります。本書の要旨は「自分にとって人生の本質は何かを良く考え、明確な意志を持ってそれを選び取り、それだけに集中することで人生はうまくいく」ということです。
私たちの目的は「これしかない」と思えることを、ひとつだけ見つけることだ。
『エッセンシャル思考』P144
これと逆のことが主張されているのが『多動力』(堀江貴文・著、幻冬舎)です。著者の堀江氏は「一つのことをコツコツとこなす時代は終わった。これからの時代は興味を持ったことはとりあえずいくつも同時に始めてみて、次から次へと落ち着きなくやってみることが重要だ(大意)」と述べています。
どちらが正解ということはありません。言わばどちらも正解で、それはそれぞれの性格や生き方の問題です。グレッグ・マキューン氏は一つのことに集中するタイプで、そうすることによって人生が上手く行った。堀江貴文氏は興味を持ったことを並行してこなすことに長ける人物で、それで上手く行っている。優劣はありません。
上記から私が思うところは2点あります。
1. それぞれの性格にあったやり方を選択すれば良い
落ち着きのない人が「一つのことに集中せよ」と言われても、それは単なる苦行です。同じくして、一つのことに集中したい人が「あれもこれも手を出せ」と言われても、集中力を欠くばかりで進捗しないでしょう。
人には個性があって正解や優劣はありません。それぞれの心に響くアドバイスを取り入れればいいと思います。とすれば、世に蔓延する「直感で行動せよ」というアドバイスを必ずしも聞き入れる必要はないということです。
2. 両者のいいとこ取りをしてしまえばいい
冒頭でも紹介した通り、私は行動力というものが殆どなかったのですが試しに行動してみた結果が現在に繋がっています。「よく考える」と「とにかく行動」は相反するアドバイスですが、それぞれの長所を採り入れれば自分なりの世界に一つだけの素晴らしい答えが見つかるのではないでしょうか。
特に『多動力』における「同時進行でとにかく行動してみる」は私にとっては少し疲れてしまう考え方なのですが、それを「様々なことに興味を持っておくこと」や「視野を広く持っておくこと」と解釈すると素晴らしいアドバイスになります。
2.『敗者のゲーム』 ―直感で投資してはいけない
素人投資家のための誠実なバイブルと言っても差し支えない名著『敗者のゲーム』(チャールズ・エリス著、鹿毛雄二・訳、日本経済新聞出版社)において、個人投資家のためのアドバイスとして「直感を信じるな」と強調されています。
直感を信じて投資してはいけない。うまくいって有頂天の時は、大火傷が待っていると思ったほうがよい。落ち込んだ時は、夜明け前が一番暗いということを思い出そう。そして、何もしないことだ。売買は運用のプラスアルファの部分に過ぎない。
『敗者のゲーム』P153
個人投資家でなくても「直感を信じてはいけない」ということは、今を生きる全ての人への人生の教訓として転用することができると私は考えています。なぜなら、株式市場は様々な人の思惑が絡み合って値動きがランダムに上下するカオス系であり、自分の力だけではどうすることもできない事象だからです。
これは私たちの人生の、そしてこの世界の縮図である気がしてなりません。
3.「直感で選ぶとうまくいく」は主観的な結果論
私は「直感で選ぶとうまくいく」は単なる結果論であると考えています。しかもそれは「直感で選ぶことを好む人は、その行動がうまく行っていると考える傾向にある」というある程度のバイアスがかかったものでしょう。
直感で選ぶ人の心理
直感で物事を躊躇なく選ぶことのできる人というのは基本的に考え方がポジティブな人です。何をやってもうまくいくと考えているからこそ何にでも行動的になれるのです。
で、ポジティブな彼らですから行動の結果についてもポジティブに捉える傾向にあるに違いありません。「ほんの少し成功した」は「大成功だったよー」と、「ほんの少し失敗した」は「まだまだこれからだな、いい勉強になる」と、「大失敗した」は「いい経験ができたから成功だな」と。
結果がどうあれ彼らはこう言うでしょう。「直感で選ぶとうまくいく」と。
よく考えて行動する人の心理
じっくりと時間をかけて判断する人はリスク回避志向で、悪いところに目が行きがちなネガティブな人であると言えます。だからこそ失敗しないために行動の前にあらゆる情報を吟味するのです。
彼らがよく吟味した後の行動の結果、仮に大成功したとしても浮かれ気分にはならないはずです。「まだまだ問題は山積みだ」「今が一番厳しい時だ」「もっと効率良く結果を出せたはずだ」と。
実際にうまくいっている彼らですが、「直感を信じればうまくいく」なんて決して言わないでしょう。
まとめ:「直感で行動すれば成功する」は根がポジティブな人の常套句だから気にするな
とすれば、「直感で選ぶと成功する」という言葉は客観的に見て成功しているかどうかは関係なくて、根がポジティブな人が感覚でそのように言っているだけのものであるとみなすことができます。
私のように根がネガティブで、綺羅びやかな成功よりも暗澹たる失敗の方に気を取られがちな人は「直感で行動しよう」という考えは受け入れがたいはず。
それでいいのです。
「直感で行動しよう」は物事を一面的に捉えた結果に過ぎません。リスク回避志向の私が誰かの言う底抜けに明るい「直感で行動しよう」に影響されて実際に直感であれこれと無節操に行動したとしても、後に残るのは疲労と後悔だけに違いないのです。「やっぱりよく考えてからやればよかった」と。
「直感で行動する」が正しいわけでもないし、「よく考えて行動する」が間違っているわけでもない。逆も然り。重要なことは両者の良いところを採り入れつつ「自分の頭で考えて行動すること」であると私は考えています。
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