スーパーマーケットにおける生鮮部門(鮮魚、精肉、青果)は一週間に一度棚卸しがあります。生鮮棚卸しと呼ばれていました。
棚卸しというと半期や一年に一度行われるものと思われますが、生鮮部に関しては全ての商品にバーコードが付いているわけでもなく、例えば玉ねぎやじゃがいもは箱入りのバラの状態で納品されたものを袋詰めするなど形態を変えて販売することは頻繁なので、データ上での利益の把握がしづらいのです。
従って、週に一度は棚卸しを行い、きちんと利益を算出しましょうということです。
ここでは棚卸しの計算の仕方とその仕組み、また私がスーパーマーケット社員時代によく行っていた架空在庫の計上によるインチキ棚卸しのメリット・デメリットについて説明していきましょう。
棚卸しの目的とは?
棚卸しというと在庫を隅から隅まで数える光景をイメージするでしょう。そう、棚卸しとは在庫をカウントし、現在ある在庫金額を把握することです。
ですが、それは棚卸しの目的ではありません。
在庫を数えることは棚卸しの手段であり目的ではないのです。
棚卸しの目的は「その期間で上げた利益はどのくらいなのか算出すること」に他なりません。
従って、あらゆるお店が一生懸命に棚卸しを行っていますが、それは「在庫を把握して次の発注に活かすため」ではなく、「季節商品入れ替えのため」でもなく、「なんとなくやったほうがいいっぽいから」でもありません。
繰り返しになりますが、利益を正確に算出すること。それこそが棚卸しの唯一の目的です。
定期的に棚卸しを行う事によって「利益が出てたつもりだったんだけど、実際には全然儲かってなかった」ということが数値としてきちんと把握できます。
そうすることによって「少し値上げしよう」とか「廃棄ロスが多すぎたから慎重に発注しよう」とか、利益改善のための手をすぐに打てるというわけです。
さて、ここでわかることは「在庫を数えると利益を算出できる」ということです。
なぜそうなるのか、次で見ていきましょう。
棚卸しの計算式とその仕組み
いきなりですが、棚卸しの計算式を提示しておきます。
利益金額 = 売上金額-(期首在庫金額+当期仕入金額-期末在庫金額)
ちょっと複雑な式が出てきました。けれど大丈夫です。難しくありません。
単純に”売上−仕入”じゃ駄目なの?
上記の面倒くさそうな式を見てこう思った人もいるかもしれません。「利益って”売上−仕入”で算出できるだろ。なんでこんなに複雑な計算が必要なんだ?」
わかります。私も入社した当初はそう思いました。
上記の複雑な棚卸し計算式はつまり「ある期間における」「売上−仕入」を算出するためのもの、です。
例えば、今週は玉ねぎを100袋を一袋70円で仕入れて、そのうち50袋が100円で売れた。残りの50袋は在庫になっていて来週そのまま売るという場合、「売上−仕入」を普通に計算すれば下記のようになります。
*
仕入金額 → 100(袋)×70(円) = 7,000円
売上金額 → 50(袋)×100(円) = 5,000円
5,000(円、売上金額)−7,000(円、仕入金額)
= マイナス2,000円!!!
”売上−仕入”じゃ駄目な理由
2,000円の赤字!!!
そう、単純に「売上−仕入」で計算してしまうと赤字になってしまいます。
ですが、今週仕入れた玉ねぎは来週も100円で売ることができます。
来週もそのまま売って利益にすることができる在庫を今週の仕入赤字分として計上してしまっていいのでしょうか。それで経営し続けていく中での妥当な利益数値が算出できるでしょうか。
また、上記の例では勘案しませんでしたが、営業し続けている店舗であれば先週の棚卸しからの繰り越しの在庫もあるはずです。
単純に「売上−仕入」という計算では先週からの繰り越し在庫の概念が考慮されていません。
ということは、先週に玉ねぎを大量に仕入れておいて今週は全く仕入れなければ利益率100%となってしまいます。
「売上−仕入」という単純な計算は果たして正確な棚卸しと言えるだろうか、疑問の余地がおわかり頂けるでしょうか。
複雑な棚卸し計算式が意味するもの
従って、上記の複雑な計算式が登場するというわけです
利益金額 = 売上金額-(期首在庫金額+当期仕入金額-期末在庫金額)
この計算式が何を意味しているかというと「今期の売上金額」から「今期の売上金額のうちに占める仕入金額(売上原価)」を引いて「今期の利益金額」を算出しようということです。
別の言い方をすれば、今ある在庫は次期に売るものとしてとりあえず考えないことにして今期の利益を計算しようということです。
この計算式を用いて、上述の玉ねぎの計算をするならば下記のようになります。
期末在庫とは、今期の棚卸しで算出した在庫金額のことです。
*
当期仕入金額 → 100(袋)×70(円) = 7,000円
売上金額 → 50(袋)×100(円) = 5,000円
期首在庫金額 → 0円
期末在庫金額 → 50(袋)×70(円) = 3,500円
5,000(円、売上金額)−(0(円、期首在庫金額)+7,000(円、仕入金額)−3,500(円、期末在庫金額))
= 1,500円の黒字!!!
*
どうでしょう、来期も売れる在庫を仕入金額からマイナスしたことによって利益が確保できる計算になりました。
要するにこれは、売れた50袋分の仕入金額だけを原価として計上(売上原価)し利益を算出していることと同義です。
ちなみに、来期の計算もしてみましょう。
仕入れはせずに在庫の玉ねぎ50袋を100円で全て売ったということにしましょう。
今期の期末在庫=来期の期首在庫となります。
*
当期仕入金額 → 0円
売上金額 → 50(袋)×100(円) = 5,000円
期首在庫金額 → 50(袋)×70(円) = 3,500円
期末在庫金額 → 0円
5,000(円、売上金額)−(3,500(円、期首在庫金額)+0(円、仕入金額)−0(円、期末在庫金額))
= 1,500円の黒字!!!
*
今期も来期も、同じように一袋70円で仕入れた玉ねぎを一袋100円で50袋売ったので、利益も同じように1,500円という計算になりました。
棚卸しの仕組み(悪の方程式)
さて、上記の計算式において「期末在庫が増えれば利益が増える」と気付いたら鋭いです。
そう、計算上は期末在庫を多く計上すればするほど利益が多く算出されることになります。
上記玉ねぎの例の続きで、全て完売したはずですが架空の期末在庫を20袋投入してみましょう。
当期仕入金額 → 0円
売上金額 → 50(袋)×100(円) = 5,000円
期首在庫金額 → 50(袋)×70(円) = 3,500円
期末在庫金額 → 20(袋)×70(円) = 1,400円
5,000(円、売上金額)−(3,500(円、期首在庫金額)+0(円、仕入金額)−1,400(円、期末在庫金額))
= 2,900円の黒字!!!!!
架空の在庫計上によってだいぶ利益が増えました。
そう、私が推進したいのは、この仕組みを上手に使って利益の操作をし、いちスーパーマーケットの社員たる我々において「利益が取れてないぞ!」と上司に怒られないようにしましょうということです。
但し、注意点が4点あります。
架空の在庫投入の注意点
仕入れを増やしても意味がない
「期末在庫を増やせばいいんだろ」という考えから実際に大量に何かを仕入れても全く意味がありません。
架空の期末在庫を投入すると利益が上がるというのはあくまでも計算上の問題で、「仕入金額が少ないのに在庫が多い」から利益が出ているように見せかけることができるということです。
実際に商品を仕入れて実際の期末在庫を増やすのはやめましょう。
次期で利益を取り返す必要がある
一度嘘を付くと嘘をつき続けなければならなくなります。
従って、一度架空の在庫を投入して利益を水増しした場合には次期では何が何でも利益を取り戻す必要があります。徹底した値上げをするなどして、とにかく利益重視で業務を遂行しましょう。
来期でも更に利益を落としていたとなれば、さらに多くの架空在庫を計上しなければ挽回できなくなります。
嘘を嘘で塗り固めた顛末は恐ろしいものです。
在庫金額が増える=不良在庫が多いとみなされる
結局は、利益を取るか、在庫を取るかという問題になります。
棚卸し報告において、利益が取れていなければ「利益が少ないぞ」と指摘され、在庫が多ければ「何だこの在庫金額は」と叱責されます。
無難なやり方は、棚卸しの日には期末在庫を限界まで抑えるようにして架空在庫を投入する余地を残しておくことでしょうか。
あるいは逆に、利益は取れているけれど在庫が多すぎるという場合にも同じ理屈で在庫を削る(あえて計上しない)ことが可能になります。
本来は絶対にやってはいけないこと
棚卸しは会社の利益を確定する作業です。利益とは企業の生命線です。
その数値を虚偽で報告するということは許される行為ではないのです。
結局のところはバレなければいいのですし、バレることも殆どないのですが、良からぬ行為であるということは頭の片隅に置いておきましょう。
まとめ
主にスーパーマーケットの青果を始めとする生鮮部の棚卸しをわかりやすく解説してみたつもりです。
上述の棚卸しの仕組みがわかれば在庫操作によって健全な部門経営をしていると見せかけることができます。
朝イチで棚卸しを終わらせることもできます。
上手な棚卸しのコツを掴むことで、利益達成、適正在庫、さっさと仕事を終わらせての定時帰宅が可能となります。
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