もちろん、自らの意志において「3年間勤める」のなら構いません。
ですが、親や上司から「すぐに辞めるなんて忍耐力がない。3年は勤めなきゃ駄目だ」なんて叱責され、その呪いのような言葉に従ってつらい日々を耐え忍ぶことには何の意味もないと私は考えています。ただ「とりあえず3年間耐えた」というスキルでも何でもない実績が付いただけの期間は、短い人生を無駄にした時間となるばかりか、場合によっては健康への障害や命の危険に繋がるリスクがあります。
特に社会に出たばかりの新入社員に対しては、会社は「社会人ってのはこういうものだ」という一方的な価値観を押し付け、洗脳したがります。その中には「入社して3年は辞めるな」を初めとして「残業代が出ないのは当たり前だ」「上司の指示は絶対だ(パワハラまがいのことでも)」等が含まれるわけですが、もちろん、そんなものは屁理屈です。言うことを聞く必要なんてありません。
本稿においては「入社して3年は辞めるな」がどれだけ理不尽で、人生を破壊し命を脅し得る可能性のあるものであるかを考えていくものです。
その論拠 ―電通過労自殺事件より
「入社して3年は辞めるな」が命を脅かす危険であり得るという論拠は、電通という企業における若手社員の過労自殺を元にしています。電通という日本を代表する大手企業は過去に二度、過労自殺者を出しています。いずれも大きく報道されました。
・1991年、24歳の男性社員。入社から1年5ヶ月での出来事。
・2015年、24歳の女性社員。入社からわずか8ヶ月での出来事。
注目すべきはいずれも入社して3年以内の若手社員であるということです。世間では「入社して3年は石にしがみついてでも我慢しろ」という説教臭い考え方が未だに常識として通用している節がありますが、その結果、命を落としてしまっては意味がないのです。
自ら死を選ぶというのは極限の状態です。生存本能を捨ててまで死を選び取らなければならなかった決断は想像を絶する。従って、私が言いたいのは当然ながら「3年耐えられなかった方が悪い」ではなく「入社して3年は辞めるな」という頭の固い常識の方が間違っているということを言いたいのです。
耐え忍ぶ3年は永遠のように長い
「入社して3年は辞めるな」論を唱える者たちは、恐らく「たった3年」という意味で主張しているのだと思われます。「長い人生の中のたった3年くらい死ぬ気で頑張れ」と。「俺は若い頃に死ぬほど頑張った。その経験は今では宝物だ。だから君たちも頑張れ」と。
私事ですが、新卒で入社した会社を2年半で辞めました。度重なる引っ越しを伴う異動と長時間労働で体調を崩してのことです。それはたったの2年半だったけれど、毎日「会社に行くの嫌だな」と悶々と悩みながら過ごした時間は体感的には5年にも10年にも感じます。今でも思い出すとたった2年半というのが嘘のよう。3年以上は勤めていた感覚があるのです。
「入社して3年は辞めるな」と口先で軽々しく言うのと、ボコボコで不安定な石の上で耐え続ける3年は全く別物です。従って、誰かの言う無責任な「3年」に耳を貸す必要はありません。それは何も分かっていない者による単なる戯言に過ぎないのです。
就職は人生におけるゴールではなく、スタートですらない。だから辞めていい
就職活動はくじ引きであり運や不確定要素の強いものであると個人的には思っています。就活生は自分で志望企業を決めて自分の意志で面接に挑むわけですが、その企業の「実際のところ」は就活生を含む外部の人間にはわからないのです。それは言わばブラックボックスであり、志望企業に内定をもらったが「常軌を逸したサービス残業が当たり前だった」「パワハラが日常茶飯事だった」「やりがいなんて全くなかった」「自分のやりたい仕事じゃなかった」ということが当たり前に起こり得ます。
就職は人生におけるゴールではありません。スタートですらない。ただ単に「入社すること」、それ以上でもそれ以下でもありません。
人生の最大の特徴は何度でもやり直しができるところにあります。私も過去に二度、最悪な会社の辞め方をしてしまい「自分は何て駄目な奴なんだ。人生が終わった」とひどく絶望したものですが、現在、何事もなくのうのうと生きることができています。
妥協なき就職活動は厳しいものでありながら、先述の通り不確定要素が多いものです。頑張って就職戦線を勝ち抜いて入社した企業が理想とかけ離れていた場合の失望感は計り知れないものがあるでしょう。入社後1年も経たないうちに行き詰まりを感じてしまうかもしれません。
だけど、就職は人生におけるゴールではなく、スタートですらない。そう、合わないと思ったら辞めてしまえばいいと私は思います。辞めたら収入がなくなって生活ができないとかいろいろ考えるべき問題はあるでしょうけれど、人生は「会社を辞める=生きることができない」なんて単純にはできていません。なんとかなるものです。そのなんとかなり方は人それぞれでしょうが、少なくとも駄目人間たる私でさえなんとかなっています。
過労自殺は誰にでも可能性がある
無理をして3年間を耐えることの最悪の結果は過労死、過労自殺です。上記に例として挙げた電通の社員も過労自殺をするために入社したわけじゃない。厳しい就職戦線を勝ち抜いた末、希望を持って入社したはずです。にも関わらず、入社後わずか約1年で変調をきたしてしまい良くない結果となってしまった。
これは誰にでも可能性のあることです。電通という会社が特殊だったわけでもなく、過労自殺に追い込まれてしまった人たちが特別に弱かったわけでもないと私は考えています。これは明日、明後日、あるいは半年後や一年後に誰にでも起こり得る物語です。
また、死という最悪の結果は免れたとしても、うつ病・うつ状態などの精神疾患に見舞われる可能性も大いにあります。心の病は回復までに時間のかかることが多く、社会復帰までにブランクが空いてしまう傾向にあります。それを避けるためには、誰もが可能性のある当事者であるということを常に覚えておき、「入社して3年は辞めるな」などという無責任な妄言・非常識にコントロールされることなく、自分の心と相談しながら自分の人生を自分で選択することが肝要であると思います。
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