【中小・零細】勤めていた会社が事業拡大を失敗した具体的2例

 二度の転職の中で、勤めていた零細企業が事業の拡大を画策したものの、ごく短期間で失敗に終わった例を何度か見てきました。私の見解ではそれらは単なる暴走であり「失敗するべくして失敗した事業拡大」です。

 小さな会社のトップになんて必要書類を提出しさえすれば誰でもなれます。「優秀だから社長になった」のではありません。「紙を提出する行動力があったから社長になった」と私は考えます。

 従って、社長と名の付く者の中にはマーケティングのマの字もわからない人物がたくさんいます。運任せで経営をしています。で、直感と衝動と謎の行動力によって事業を拡大するわけです。で、それが失敗した後には恐ろしいことが待っています。

 

【重要】事業拡大に失敗した事業は死を迎える!

名著『成功する人たちの起業術 はじめの一歩を踏み出そう』(マイケル・ガーバー著、原田喜浩訳、世界文化社)には下記の記述があります。

 どんな事業にも選択肢は成長するか、縮小するかの二つしかない。せっかく事業が大きくなっても、いろいろな問題が起きてくると、職人タイプの経営者はそれを解決することをあきらめて縮小させてしまう。せっかくつくりあげた会社なのにね。でも、これは自然な反応なんだ。そして「事業を縮小する」会社は、死を迎えることになる。今すぐではなくても、いずれ消え去ることになってしまう。いれ以外に、どうにもならないんだ。(P76)

 事業拡大に失敗し、縮小を余儀なくされた会社はいずれ死を迎える――。これが真実。私の眼前で事業縮小をした会社は、今はなんとか経営を続けているようだけれど、いずれは消え行く運命にある可能性が極めて高いのです。

 これから何か事業を始めようとしている私たちは自らが失敗する前に、愚かな誰かの失敗から学ばなければなりません。その愚かさが空前絶後の強烈な約束された失敗であったとしても。

 さあ、私が目撃した「事業拡大の失敗2例」を見ていきましょう。

 

1例目:農産物出張販売を目論んだ農業法人

概要

・第六次産業を目指す東北の米作り農業法人

・関東で見つけた空き地で自社の米や地域の野菜を出張販売することを始める

・採算が取れない上、毎週6時間もかけて直接関東に行くのは疲れる→数ヶ月で打ち切り

・出張販売のために購入した数百万円のトラックが宝の持ち腐れに

 

突然に始まった出張販売計画

 その農業法人は米作りを主な事業とする会社で「第六次産業」(自社で生産・流通・販売まで手がける農家)を画策していました。作った米をJAに流通委託するのではなく自社で独自に販売経路を作ることができれば、高い利益を確保することができるということです。

 社長はある日、突然に「埼玉で米の出張販売を始める」と言い出します。販売場所はたまたま知り合いに貸してもらえた空き地。行動力のある(行動力しかない)社長はやると決めたら止まりません。その出張販売に使用する4トントラックを即決で購入し(数百万円)、地域の野菜や特産物も併せて売ったらいいんじゃないかと山菜や果物を大量に仕入れ、チラシを手作りで作成し、果たしてそのほぼ無計画な出張販売は始まったのでした。

 

上がらない利益

 何事も初めは楽しいものです。毎週土曜の午後に東北を出発し、かなりの時間をかけて現地へ。行きつけの店でわいわいと飲んでビジネスホテルで一泊。翌日曜の朝から昼頃まで販売をし、そのまま帰ってくる。というのを毎週やりました。

 お客さんはそれなりに来ましたが、採算とは程遠いものでした。4トントラックの減価償却、行き帰りの燃料費と高速道路料金、仕入原価、人件費――。それら全てを回収できる利益を上げることは一度もありませんでした。それどころか、大量に仕入れた山菜は大量に余り、大量に仕入れた果物も大量に余るという始末。

 それでも社長はポジティブなので「やー、今回はお客さんたくさん来てみんな喜んでたな。この調子で行けば黒字だろー。ていうかもう採算取れてるはずだなー」なんて愉快に一人で喋っていました。毎回超が付くほどの赤字ですけど。

 

疲れと飽き ―出張販売の終焉(フェードアウト)

 毎週日曜朝のその販売会のためだけに東北からわざわざ埼玉に行き、そのまま帰ってくる。しかも売っているのは単価の低い農産物。採算なんてとれるわけがないし、毎週となると皆だんだんと疲れてくる。私たちには普段の仕事があり、出張販売はプラスαで行っていたからです。

 主にトラックの運転をしていた社長も疲れてきたのでしょう。開始から数ヶ月後のある日、社長はふと「今週はやめよう」と言いました。階段を踏み外したらあとは転げ落ちるだけ。「毎週やろう」が「今週はやめよう」になり「隔週にしよう」になり「月に一回で充分だろ」となり、出張販売はそのままフェードアウトしました。その出張販売に携わり、社長に振り回されるだけ振り回された私を含む数名の社員がその後辞めていったのは自然なことです。

 あとに残ったのは、出張販売のためだけに数百万円で購入した仰々しい4トントラック、余ったので塩漬けにしてみた大量の山菜、どのくらいかわからないが多額の赤字だけなのでした。

 

2例目:店舗を急速に増やした菓子屋

概要

・本店の急速な売上低迷を補うべく短期間に新たに3店舗を出店

・店は増えたけれど経費削減のため人は増やさないので、つぎはぎだらけのシフトになって社員は疲弊

・そもそもの出店が間違いで全ての店舗が赤字

・負債だけを残して速やかに2店舗を閉店

 

売上確保のために店舗を増やす

 菓子などの実演販売をする会社でしたが、本店の売上が急速に落ち込み始めたことへの対策として店舗を増やし始めたのでした。その第一歩がなぜかいきなり県外への出店。本店から50kmも離れている。テナントの入れ替えで出店の話がたまたま来たからそこに出店を決めたらしい。新店舗の従業員は入れ替え前の店舗で働いていた人をそのまま引き継ぎ雇用するスタイルを採りました。

 開店当初は売上は好調でしたが、数ヶ月もすると低迷。新しい事好きの社長も50km離れた場所にわざわざ行くことに飽きてきて新店舗の管理・監督を放棄。唯一の上司が去った新店舗は無法地帯と化し、お客さんからの接客・品質クレーム件数はうなぎ昇りという状況になりました。

 そんな店舗運営ボロボロの状態に追い打ちを掛ける事態、社長が「売上確保のため、さらにもう一店舗出店する」という英断を下したのでした。

 

従業員が足りないのに無計画にもう一店舗増やす

 もう一店舗出店する、だけど人は雇わない。ボロボロの歯車に疲弊する社員。どう考えても人が足りない。兄弟の葬式に行けなかった社員もいたし、一ヶ月間ほぼ出勤しっぱなしの社員もいました。疲れ切りながら皆頑張ったのですが、その新店舗は立地条件の悪さから開店当初から全く売上があがらず常に赤字状態で、開店から一年を待たずに閉店しました。残ったのは出店のための莫大な店舗改装費だけ。

 

なぜか他業種にも進出、赤字に気づかない経営

 その裏側で「本店の側に寿司屋と天ぷら屋を出店する」という計画が進行していました。理由は社員の中に寿司を握れる人がいて、出店依頼が来た店舗に天ぷらを揚げる装置がたまたま備え付けてあったから。場末のショッピングセンターへの出店でした。

 社長は当該寿司屋と天ぷら屋の経営には全く関与せず、かと言って店長を立てるでもなく完全に放置状態。で、2年後、毎日が大赤字状態だったことにようやく気づき急いで店を畳んだのでした。何がしたかったんだ。

 

残ったもの ―希望の残滓

 要するに、本店の売上減の穴埋めをすべく次々に無計画に出店していったけれど、全て失敗にて撤退。残ったのは莫大な開店費用・経常赤字による負債、社員の疲弊、社長への不信感、そして売上の落ち続ける本店(赤字)と最初に出した新店舗(赤字)です。この会社は一体どうなってしまうのだろうか。

 

まとめ:なぜ経営拡大は失敗したか

 なぜ上記2社が事業拡大に失敗したのか。それはおわかりの通り「無計画だったから」という事に尽きます。「行き当たりばったり」「無責任」「思い付き」「衝動」「勢い」だけで事業を拡大した。未来を甘く見すぎていた。「店を出せば売れるだろー」と安直に考えていたのです。

 冒頭の繰り返しになるけれど、会社経営者と言うときちんと数字を把握し、計画を立て、マーケティングを入念にして事業の拡大戦略を立案していくというイメージがあったのだが、実際のところは全く違ったのでした。

 最初のうちは情熱と衝動だけで運良く経営がうまくいくこともあるでしょう。けれど、事業の拡大となると幅広い視点での綿密な戦略が必要不可欠になります。「美味しければ売れる」「品質が良ければお客さんはついてくる」というのは職人の独りよがりな神話に過ぎません。「やってみればなんとかなるだろー」は根拠のない楽観です。

 会社経営者は職人を目指すのではなく名の如く経営者を志向すべきなのであり、同じく会社経営者にはポジティブではなくネガティブ(言い換えればリスクマネジメント)が要請されると私は考えます。

 
参考文献:

 
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