就職活動における企業が求める理想の人材には殆どの場合「リーダーシップ」「コミュニケーション能力」「行動力」などという項目が並びます。間違っても「一人で黙々と仕事ができる」「静かである」「変人」が会社において理想の人材とされるケースは極めて稀です。前者は外向的性格を示し、後者は内向的性格を示しています。
現在、この社会は外向型を理想としており、私のような極端に内向的な性格の人はとにかく肩身が狭いというわけです。
だけど、このように社会が外向的な人を理想とし始めたのは、人類の長い歴史の中でもここ約100年間だけの話。1900年代初頭のアメリカで推進された新しい社会が「1.セールスマンの誕生」「2.社会の組織化」「3.都市型社会」を生み出したために「商品をたくさん売る人」「組織を引っ張れる人」「誰とでも上手くやれる人」を市場が急速に求めたことによるものです。
下記において「内向的性格の人が社会で生きづらい3つの理由」を詳しく見ていきましょう。
1. 大量生産・大量消費社会がセールスマン(営業職)を必要とした ―人を動かす人が有利になった
産業革命以降、私たちはモノを過剰に生産できるようになりましたが、生活が豊かになるためには「生産」だけでは足りません。「売る人」がいなくてはならないのです。というわけで、その商品の特徴をスラスラと朗らかに説明し、相手を買う気にさせるセールスマン(営業職)という職種が1900年代初頭、アメリカで誕生しました。
特に農村の少年から天才セールスマンへ、そして弁論術のカリスマへと変身したデール・カーネギーのサクセスストーリーは当時のアメリカ人の心を鷲掴みにし、たくさんの商品を売り人を動かすことのできる人物がこれからの社会における理想像であることを印象づけると共に、それまでの「人格(規律正しさ、高潔さ、誠実さ)」重視の社会から「性格(自分が他人にどう見られるか)」重視の社会へと急速に変貌を遂げさせることとなります。
デール・カーネギーの名著『人を動かす』が今なお日本を含めた世界中で古典として持て囃され売れ続けていることは、いまだに外向型が理想とされる社会からの脱却をまだ果たせていないということを示しているようです。
商品を買わせるための話の「説得力」という点では実は内向型のほうが優れているというはっきりとしたデータがあります。それでも、外向型がセールスにおいて有利であるのは「押しが強い」「深く考えない」「メンタルが強い」という要素によるものです。つまりは初対面の人に対する「コミュニケーション能力」に優れているということであり、これは内向型の嗜好とは逆の要素であるというわけです。
2. 社会の組織化によってリーダーシップの取れる人材が求められるようになった
また、社会の急速な組織化によって「リーダーシップ」が求められたことも外向型が重宝された要件として挙げられます。
リーダーシップにおいて求められるのは往々にして「自信を持って話すこと」です。自信がなくても自信があるように見せること。間違っているかもしれなくても「自分の言うことは正しい」と胸を張って大声で言い切って、組織を引っ張っていくこと。
これは内向型のやり方とは真っ向から対立します。内向的な人は幾度もの検証を重ねて正確さを追求することを志向します。正しいかどうかわからないのに「正しい」と言い切ることを最も嫌います。正しいと言えるかどうかの検証・実証に情熱を注ぎ、確証が持てた時に初めて「正しい」と静かに自信を持って示すのです。
従って、社会が求める「ただ自信があるだけのリーダー」の養成講座は内向的性格にとってはストレスで窮屈で理解不能な代物でしかありません。学ぶところが全くないとは言いませんが、根本的なやり方が違うのです。草食動物に肉を食べろと強要するようなものです。それでは消化不良を起こしたりストレスで倒れたりしてしまいます。
リーダーシップについても実は外向型が優れていることを示すデータよりも、むしろ内向型のほうが組織をよりよく統率でき、正しい方向へ導くことができるとした研究結果のほうが信憑性が高かったりするのですが、外向型の人を引っ張る能力は非常に強力で目に見えてわかりやすいので未だに重宝され続けているといったところでしょう。
3. 農村社会から都市型社会へ ―誰とでもうまくやれる人・すぐに結果を出す人が有利になった
大量生産・大量消費社会は社会の物理的なあり方にも変革をもたらしました。農村社会から都市型社会への変貌です。
農村社会では弁の立つ人(=外向型)も職人気質(=内向型)も優劣はなく、上手く共存していました。人は一生を小さな村の中で顔見知りと過ごしていたのです。
しかしながら、新しい社会・ビジネスの誕生により人は仕事を求めて農村から都市部へと動き始めます。都市の人口は爆発的に増加しました。
多くの他人同士が暮らす都市部に存在する会社の組織において求められるスキルは「初対面でも誰とでも上手くやれる能力」「すぐに結果を出す能力」、つまりは外向的な性格です。それは「新しい環境や新しい人間関係に強く警戒をしてしまう」「物事にじっくり取り組むスロースターター」な内向的な人にとっては思い通りに行かない社会です。
今では当たり前に使われている「劣等感」という言葉は、実は1920年代にアルフレッド・アドラーが作り出した心理学の用語であり、人類の歴史にとってはごく最近生み出された概念なのです。新しい社会が「エネルギッシュな」「生き生きとした」「驚くほど魅力的な」人物だけを熱狂的に理想とするせいで、それについていけない主に内向的な人が社会的な不安=劣等感を覚えがちであるということはアドラー、ユングを代表とする多くの心理学者によって指摘されました。
本稿の冒頭でも指摘した通り、これは都市部への人口流出は加速する現代日本においても変わりません。就職活動においてはステレオタイプに「リーダーシップ」「コミュニケーション能力」「行動力」が求められ、就活生・転職を目指す人はそれら外向的な特徴を演じて面接に臨むこととなります。「趣味はアニメ鑑賞です」はNGで、「趣味はスポーツです」と偽装することが求められます。
内向型も外向型も個性であり優劣はありません。だけど、私たち内向型人間は、外向型であるかのように偽装しなければ社会でうまくやって行けず、職にありつくのも一苦労であると言うわけです。以上が「内向的性格の人が社会で生きづらい3つの理由」ですが、下記関連記事においては内向的な人の長所や処世術について示しています。気になる記事があれば是非ともご覧ください。
関連記事:
もう自分を偽らない。内向的な人が天職を見つけるための3つの質問
参考書籍:
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