むかしむかし、あるところにおじいさんとおばあさんがいました。
おじいさんは山へ芝刈りに行こうと思ったのですが、なんか熱っぽい感じがしたので家に帰って寝、おばあさんは川へ洗濯に行きました。
すると、川上から大きな桃がどんぶらこどんぶらこと流れてくるのが見えました。
おばあさんは桃を拾い上げ、家に持ち帰りました。
「まあ、なんて大きな桃だ」
おじいさんとおばあさんが桃をまっぷたつに割ってみると、「おぎゃあおぎゃあ」と中から元気な男の子が出てきました。
ふたりは男の子を桃太郎と名づけ、大切に育てました。
桃太郎はすくすくと育ちました。
「なあ、桃太郎や」
「うん」
「鬼が悪さをしよるんじゃよ」
「うん」
「鬼は、鬼ヶ島ちゅうところにいるらしいんだけど」
「うん」
「そろそろ退治してきてくれんかね」
「うん」
「なあ、桃太郎や」
「うん」桃太郎は布団に横になったまま続けました。「でも、頭痛がするんだ」
「わかるけど」
「わかってくれる?」
「でも、もうそろそろ。こないだは熱があるとか言って、その前はお腹が痛いとか。ね、そろそろさ。財宝のこともあるし」
「やー、でも具合が悪いんだよね。体調不良。お宝ね、持ってきたいさ。だけど、こんなんじゃ鬼なんてやっつけられないよ。一瞬で返り討ち。そうなってもいいっての?」
「そういうわけじゃないんだけど」
「治ったら行くからさ。鬼は悪いやつだよね。わかってるよ。たくさんの財宝で暮らしを楽にさせてあげたいよ。わかる。でも、体調が」
そのままどれくらい経ったでしょう。桃太郎はずっと寝込んだまま。とにかく長い時間が過ぎました。
「鬼だ、鬼が来たぞ」
近隣住民の騒ぎを聞きつけ、おばあさんが様子を見に行くと、確かに一匹の鬼がやってくるではありませんか。ものすごく憤慨している様子です。鬼と共に、犬猿雉も怒ってこちらにやってきます。
鬼と犬猿雉は、おじいさんとおばあさんの家に押し入り、寝込んでいる桃太郎を睨みつけました。
「桃太郎ってのは、お前か」と鬼。
「え、あ、はい」桃太郎は横になったまま答えます。
「お前さ、いつになったら来るわけ?」
「や、それは」
「具合が悪いって、寝込んでるんですよ」とおばあさんは桃太郎を弁護しますが、鬼は聞く耳を持ちません。
「ふん、どうせ嘘だろ。ふざけるなよ、こっちはずっと待ってるんだぞ。おい、連れてけ」
「やめろー」
命じられた犬猿雉は嫌がる桃太郎を布団から起こし、無理矢理連れて行こうとします。
「え、連れてくの?」とおじいさん。
「当たり前だ。この腐った根性を叩きなおしてやる」
「や、あの、その、連れて行かれると、その」
「ああ、財宝の話か」
「まあ」
「家の前に置いといた。それでいいんだろ?」
「ありがとうございます! 大切にします!」現金なおじいさん。
「ありがとうございます! お返しと言ってはなんなんですけど」と、おばあさんは自家製のきびだんごを差し出しました。
「ワンワンワンワン」「キーキーキーキーキー」「ケンケンケンケンケン」
犬猿雉は突然に大興奮。夢中できびだんごを貪ったかと思うと、3匹は声を揃えておじいさんとおばあさんに言いました。「お供します」
「じゃ、そゆことで」と鬼は桃太郎を担いで、家を出て行きました。
「やめろー、おい、助けてくれー」という桃太郎の声が遠くなって行き、ついには聞こえなくなりました。桃太郎には鬼ヶ島で地獄の鬼研修が待っています。
おじいさんとおばあさんと犬猿雉は末永く幸せに暮らしましたとさ。
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