何かを断るという行為には誰だって勇気が要ります。何かを頼まれた時、私たちが断ることを恐れてしまう理由には大きくわけて3つあります。
1. チャンスを逃すかもしれないという恐れ
2. 頼んできた人を失望させたくないという思い
3. 評価が下がるかもしれないという不安
で、往々にして私たちはあらゆることについつい「イエス」と返答してしまい、仕事を抱え込んでパンクしてしまったり、プライベートな時間や休息時間をなくしてしまうことになるのです。
それだけでなく、何でもかんでも見境なく引き受けてしまったがために結局、手が付けられない、締切に間に合わないということになれば相手の信頼を失うことにも繋がってしまいます。相手を失望させたくないから引き受けたのに、結局手がつけられずに信頼を失ってしまうのでは本末転倒です。だったら最初からきっぱりと断っていれば良かった、ということになってしまいます。
できないこと、やりたくないことは予めきっぱりと断るべきです。世界的ベストセラー『エッセンシャル思考』(グレッグ・マキューン著、高橋璃子訳、かんき出版)においては、本当に重要なことだけを選んで行うことが成功の鍵であるとした上で、上手な断り方を身に付けるべきであるとし、実践的な断り方が紹介されています(第11章 拒否(P174-))。
断る際に大切なことは「友好的に断る」ということです。「断る=敵対すること」ではありません。下記「上手な仕事の断り方8選」を見ていきましょう。
1. とりあえず黙る
気まずい沈黙を怖がらず、沈黙を味方につけよう。誰かに何かを頼まれたら、少しだけ黙ってみるのだ。ゆっくり3つ数えて、それから自分の意見を言う。もう少し慣れたら、相手が気まずくなって何か言うまでじっと待ってみよう。
反射的に「わかりました」と言ってしまいがちな人は、何かを頼まれたらとりあえず3秒黙ってみる。沈黙を味方につけるということは、その場の主導権をこちらが握るということ。そうすることによって、冷静に自分の意見を言いやすくなります。
「相手が気まずくなって何か言うまでじっと待ってみる」というのはかなり高度な戦略ではあるけれど、これを自分のものにできれば全く口を開くことなく拒否することができるという奇跡を体現したも同然です。
2. 代替案を出す
「今は本の執筆で手いっぱいなんです。でも、書き終わったらぜひご一緒させてください。夏の終わり頃でどうでしょう?」
誰でも使いやすく、しかも誰も傷つかないという汎用性の高い作戦です。「今は無理だけど来月なら」とか「その半分の量ならできそうです」とか「草案だけの提出なら」とかいろいろなバリエーションが考えられます。断ることによって今すべき一つの仕事に集中したいという目的を達するためには「今ではなく来月なら」と時期の代替案を出すのが最も効果的です。
3. 予定を確認して折り返します
ある知り合いの女性は、有能であるがゆえに誰からも便利に使われていた。(略)そんな彼女の生活を変えたのは、「予定を確認して折り返します」という言葉だった。いったん時間をおいて考えると、断ることが容易になる。
この作戦の素晴らしいところは誰でも使えるという汎用性の高さ、そして「予定を確認して折り返します」という定型文を読み上げればいいところにあります。返答する際には何も考えずに「予定を確認して折り返します」と言うだけ。相手に期待をもたせることもない。で、後に断ればいいのです。
4. 自動返信メール
私はこの本を書いているあいだ、「執筆のために隠遁中」という件名の自動返信メールを設定していた。
驚いたことに、誰も怒らなかったし文句を言わなかった。執筆が終わるまで返信できないという事実を、そのまま受け入れてくれたのだ。
いついかなる時でも緊急に対処しなければならない仕事をしている人にはなかなか難しいかもしれないけれど、ひとつのユニークな手と言えます。
私事ですが、私のかつての上司に「夕方5時以降は絶対に仕事のメールを見ない」という人がいました。「仕事が増えて帰れなくなるのが嫌だから」と。これに見習えば、定時以降はメールの自動返信を設定し、電話にも決して出ないという作戦が考えられます。とは言え、24時間仕事のことを考えていなければならない日本人のライフスタイルにはなかなか難しいかもしれませんが、それだけに大いに見習うべき点であると言えるでしょう。
5. どの仕事を後回しにしますか?
単にノーと言うのが難しければ、上司にトレードオフ(=取捨選択)を意識させよう。「はい、ではこの仕事を優先でやります。今抱えている仕事のうち、どれを後回しにしましょうか?」「今かなり仕事を抱えているので、これを無理やり差し込むと品質が落ちてしまいます」
仕事とはリソースの振り分けを何に集中させるかを選択することです。無限のお金・人材・時間があるのであれば戦略は必要ありません。何もかもが限られているからこそ戦略の名の下に何かを選ぶ必要があるのです。
にも関わらず、新しい仕事ばかりがどんどん増えて、その代わりに何も減らないというのが今の仕事において当たり前の風潮になっているように思います。人員のリソースは限られているので、仕事が増えるに伴って労働時間も際限なく増えているにも関わらず成果・生産性が思ったほど上がらないという結果に繋がるのです。
そういう意味では、この上司にトレードオフを意識させること、「何かを増やしたら、何かを減らす」ことというのは極めて論理的で真っ当な作戦です。なかなか上司も反論しづらいでしょう。
6. 冗談めかして断る
友人からマラソンに誘われたとき、私は「絶対無理!」と言って断った。友人は「まったく、きみらしい答えだね」と笑ってくれた。
親しい間柄ならこれで意思疎通を図ることも可能です。注意すべき点は「答えをはぐらかす」ということではないということです。本書でも言及されているけれど「あいまいなイエスはただの迷惑」(P174)なのです。冗談めかし、且つ、きっぱりと断るのがコツです。
7. 肯定を使って否定する
「どうぞ僕の車を使ってください。キーを置いておきますね」。親切な言葉を使いながら、運転は引き受けないという意志をきっぱりと表現している。いくらかは力になりたいが、全面的に巻き込まれたくない場合にきわめて有効だ。
高度なテクニック。仕事で使うなら、「この仕事やっといてくれないか?」「わかりました、○○君に回しておきます」とか「今日飲み会行かないか?」「わかりました、ですが何かお話があるなら今聞きますよ」とかだろうか。
8. 別の人を紹介する
「僕は無理ですけど、彼は興味を示すんじゃないかな」と言って、別の人にまわしてしまおう。自分を見込んで特別に頼んでくれたと思いたいところだが、実際は誰がやってもいい場合がほとんどだ。
「実際は誰がやってもいい場合がほとんどだ」に断るにあたってのエッセンスが詰まっています。自分がやらなければならない仕事なんて実はほとんどありません。大抵の場合「たまたま近くにいたから」とか「断らなそうだから」とかいう適当な理由によって仕事は振られてきます。
であれば、断ったところで何も起こりません。その凡庸な仕事は別の誰かに振られ、あなたはきっぱりと断ることによって自分の仕事に集中することができるというわけです。
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